生活保護と敷金精算、「人物」と「引き際」の見極めが大切

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

先月、私が保有している賃貸物件で退去が生じまして、

その退去後のお部屋が、長年放置されたブタ小屋のような状況になっていました。(自分で書いていて悲しくなります)

久々のハードな汚部屋。敷金精算について考える

職人さんへの敬意が大切、そしてオゾンクラスターは最高だった

これから、その退去された元入居者と、原状回復費用の負担額について、交渉に入ります。

そんなわけで、交渉の準備をしていたところ、管理会社さんから電話がきました。

「オーナーさん、例のお部屋を退去した方ですが、いつの間にかセイホになっていました」

何となく、そんな気がしていました。

荒れた室内、掃除の気配が感じられない埃の積もり具合、下地ボードにまで染み込むタバコの量

ボコボコになったキッチン、そのうえペットも飼ってる・・・こりゃまともじゃねえなと。

敷金精算はスムーズにはいかないな、と覚悟していたので、ショックはありません。

とはいえ、暗澹たる思いが立ち込めてきます。

退去した方が、生活保護受給者だった場合の敷金精算について、書いてみようと思います。

紺屋町に行ったときに、立ち寄った神社。
道路から見ると、ひっそり建っている感じでしたけど、
近づいてみると、堂々とした社で、厳かな気分になります。

保証会社に請求する

賃貸借契約を締結する段階で、

最近では、保証会社による家賃保証を入れることが多いです。

(ちなみに私は、保証会社なしでは、賃貸借契約は結ばないようにしています。

経験上、保証人はあてにならないから)

保証会社は、通常、家賃滞納が発生した場合に、

借主に代わって家賃を立替払いしてくれるとてもありがたい存在です。

そして、その保証の範囲には、滞納家賃だけでなく、

敷金精算時の原状回復費用まで含んでいる場合があります。

もし、保証会社の家賃保証に入っていたら、保証会社に確認して、

退去時の原状回復費用まで保証してくれる、ということがわかったら、

遠慮せずに保証会社に請求しましょう。

なお、入居の時点では、定職についていたけど、入居後に生活保護受給者になった、

というパターンでも、保証料を払ってさえいれば、家賃保証契約は活きていますので、

安心してください。

ちなみに、今回の私の事例では、借主は家賃保証には入っていませんでした。

(中古で買った物件なので仕方なし。前の貸主は、そういう知識はなかったようです)

保証人に請求する

賃貸借契約を締結の際に、家賃保証に入っていなければ、

借主の親族を保証人に立てているはずです。

賃貸借契約の関係者の中では、生活保護を受けている借主よりも、

保証人の方が資金をもっている可能性がありますので、保証人に請求しましょう。

ただ、保証人への請求では、注意すべき点が多いです。

借主と保証人の現時点での関係性、保証人の居住地と貸主の所在地の距離感、保証人の人柄など、

できる限りの情報収集をしてからアプローチしないと、こじれる可能性があります。

借主と保証人とで、日頃から連絡を取り合っている関係ならまだいいのいですが、

何年間も連絡をとっていない、というような関係だと、保証人からすれば寝耳に水の話です。

保証人が拒否反応を示さないようなアプローチ、を心掛ける必要があります。

また、昔からやっている古い管理会社の場合、保証会社に支払う保証料を節約するために、

借主の身内を保証人として用意できるなら、保証人だけで賃貸契約を進めてしまうときがありますが、

お勧めしません。

高齢の保証人の場合は、いざというときにすでにお亡くなりになっていることが多いですし、

借主との関係性が悪化してしまうと、払ってくれない場合が多いです。

私の場合は、そういう煩わしさをできるだけ排除したいので、

保証人を用意してもらっても、保証会社つけることは必須にしています。

ちなみに、今回の私の案件でも、賃貸借契約に記載されていた二人の保証人は、

すでに亡くなっていました。

同居人に請求する

借主と同居している人がいた場合には、その同居人への請求を検討します。

ここで注意しなければならないのは、

同居人には、そもそも家賃や原状回復費用の支払い義務はない、

ということです。

賃貸借契約を締結したのは、あくまで借主であり、同居人は借主ではありません。

よって、同居人は、家賃や原状回復費用の支払い義務はありません。

もっとも、それはあくまで民法上の話であって、

当事者間で合意できれば、法律上の義務のないことであっても、有効な契約になります。

じっくり時間をかけて、同居人とコミュニケーションをとって、

「全額じゃなくてもいいから払ってほしい」とお願いしましょう。

そして、同意がもらえたら、その場で一筆、書いてもらいましょう。

「アパート貸主様  

私、〇山〇子は、以前、〇〇アパート〇〇号室で、〇川〇男と同居していましたので、

〇川〇男の支払うべき修理代〇〇円のうち〇〇円を、〇川〇男に代わって支払います。

〇月〇日 〇市〇町〇番 〇山〇子」

印鑑はいりません。

無駄に相手を警戒させてしまうし、印鑑がなくても直筆の文書なら、法律上は、証拠書類として有効です。

もし分割払いならば、支払回数、支払予定日も書いてもらいましょう。

神社の手水。
龍の飾りがかっこよくて、思わず撮影。

退去者本人に請求する

保証会社なし、保証人なし、同居人なし、となったら、

行きつくところまで行くしかありません。

借主と話をすることについて、腹を括ります。

当然のごとく、一括払いは難しいでしょうから、分割払いになることを覚悟しましょう。

じっくりとコミュニケーションをとってみて、

分割払いのプランが、実現可能で支払う意思もある、と感じたら、

上記、同居人と同様に、一筆書いてもらいましょう。

(個人的には、分割は3回まで。最大伸ばしても5回が限界です)

なお、生活保護受給権(生活保護費を振り込んでもらう権利)は、

差押禁止債権に指定されているので、裁判所に訴えても差し押さえることはできません。

この点は注意しておきましょう。

もっとも、生活保護費が振り込まれた後の銀行口座は、差し押さえることができます。

そこで、敷金精算を進めていく中で、退去者の生活保護に関する情報について、

少しずつ集めておくことをお勧めします。

  • 一回に振り込まれる生活保護費の金額
  • 振り込まれる日
  • 振込口座の銀行情報(銀行名、支店名、口座種別、口座番号、口座名義)

これらを把握しておけば、いざというときに口座の差し押さえに移ることもできます。

(ただ、あまり口座の差し押さえを相手に意識させると、

振込口座を変えられたり、現金支給に変更させられたりすることがあるので、

悟られないように聞き出すことが重要です)

基本的に、回収は諦めた方がいい

ここまで書いておいて何ですけど、いうまでもありませんが、

生活保護受給者の方たちは、生活費に余裕はないはずです。

借主の少ない生活費や貯金まで削り取ってしまうと、

その後の借主の生活を考えたときに、後味が悪くなりそうです。

退去時のゴタゴタで、すでに後味が悪くなっている中で、

さらにこの後も、ゴタゴタが続くというのでは、

回収するこちら側もすっきりしません。

しかも、頑張って回収に向けて動いたからといって、苦労が実を結ぶ可能性は低い、

と言わざるを得ない。

生活保護受給者に物件を貸してしまった段階で、こちらは負け戦と受け入れて、

ある程度、退去者や関係者とコミュニケーションをとってみて、可能性がないと感じたら、

さっさと手を引いた方が勝ちかな、と感じています。

失ったお金を嘆くよりも、早めに次に向けて心をリセットし、

この件での時間ロスをこれ以上出さない、という方にシフトした方が、

残りの時間を有意義に使えます。

「引き際の見極め」というものを意識して、今回の件を進めてみようと思います。

以上、ご参考まで。

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