一般社団法人を、賃貸経営と相続税対策に使ってみた

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

私は、一般社団法人を保有しています。

もともとこの一般社団法人は、コンサルティング業務用に設立しました。

その当時、べつに一般社団法人にこだわる必要はなく、株式会社でも合同会社でも法人なら何でもよかったのですが、株式会社も合同会社もすでに持っていたので、せっかくだからと思って一般社団法人で作ってみました。

設立後しばらくは「一般社団法人」の名称を見るたびに新鮮な気持ちになったのですが、最終的には、税理士業務もコンサル業務も、提供するお客様は同じ相手なので、入金の際の会計処理がめんどくさくなって、結局、一般社団法人は使わなくなってしまいました。

しかし、思わぬところで思わぬ使い方に気づいて、現在、別の形で活用させてもらっています。

一般社団法人は、賃貸不動産をお持ちの方の相続対策に有効です。(ただ、税法改正により制限されるようになってしまったので、以前ほどの威力はないですけど)

賃貸業とのハイブリット経営のススメ

そのあたりのことを、ちょっと書いてみます。

一般社団法人も信託も、プランニング、契約書、登記まで、全部自分でやりました。
たったひとつのミスで、余計な税金を払うことになるリスクもあるので、慎重にやりましょう。

一般社団法人の概要

一般社団法人は、公益認定されない限り、「お金や財産の入れ物」として使う分には、株式会社と一緒です。

従業員を雇うこともできるし、銀行口座を作ることもできるし、何ら遜色なくビジネスに使うことができます。

設立段階では、「社員(一般社団法人における役員のこと)2人」が要件なので、自分以外に協力者が1名は必要です。(ご家族の名前を借りられるなら、それで大丈夫です)

設立費用も、ご自分ですべての手続きをするなら11万円で作れるので、株式会社の半分くらいの金額で済ますことができます。

名称については、法人の名称の中に「一般社団法人」をつけなければならないので、やや名称が長くなって、かったるい感じはあります。

まあ、それは株式会社でも同じなので、気にしなければいいのですが。

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余談ですが、一般社団法人という名称が、あまり世間でなじみがなくて、マイナスの印象というわけではないものの、実態がつかめないような印象を与えることがあります。

以前、私の関与先の社長が、外部の一般社団法人と取引をした際に、その一般社団法人のことを「政府絡みの会社さん」と言っていたので、「政府とは無関係なただの営利企業ですよ、相手も普通に商売しているだけですよ」と説明しておきました。

出資持ち分がない・・・個人の所有財産から切り離せる

さて、一般社団法人の特徴の中でもっとも重要なのが、「持ち分がない」という点です。

持ち分がない、というのはどういうことなのか、ご説明します。

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株式会社の場合、会社の財産的価値の変動が、その会社の株式を通じて、個人の資産に連動します。

簡単にいうと、「会社が黒字」になれば、会社にお金がたまって「財務状況が良くなる」。そうすると、その会社の「株式の価値も上がる」。その結果、その株式の所有者個人の「総資産も増加する」。

反対に、「会社が赤字」になれば、会社の「財務状況が悪くなる」。それに伴い「株式の価値も下がる」。その結果、その株式の所有者個人の「総資産が減少する」。

このように、会社の価値の増減が株式の価値に連動し、その延長上で、個人の資産の増減にまで影響してきます。

この場合に、何が怖いかというと、相続税課税です。

株式の所有者が死亡した場合、死亡時点の株式の価値を計算して、相続税が課税されます。

もし、死亡した時の株式の価値が高ければ、当然ながら、高額な相続税が課税されます。

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一般社団法人の場合、この株式がないため、会社の価値の増減と、個人の資産の増減が、連動しません。

一般社団法人でバンバン利益を出して、社内留保を進めて、財務状態をピカピカにしても、個人資産には影響しません。

これを、相続税対策に活かすとするなら、お気づきのとおり、「個人の資産を一般社団法人に所有させる。そしてその個人は、一般社団法人を通じて資産をコントロールする。資産から生まれる利益は、一般社団法人に貯めこんでおく」。

こうすれば、どれだけ一般社団法人で利益を出して資産を増やしても、一般社団法人の社員や理事個人(オーナー的立場の人)には相続税はかからない、ということになります。

平成29年までは、これでいけたのですが。

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平成30年に、一般社団法人をこのように使うやり方に対して、制限がかかりました。

税法改正です。

どういう制限か、大掴みにまとめますと、「一般社団法人の理事が死亡した場合には、一般社団法人の純資産を、理事の人数で割った金額に対して、相続税をかける」というものです。

前述の一般社団法人を使った相続税対策が、世に広く周知されて、それに対して国税庁が待ったをかけた形になりました。

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ただそれでも、こういう形での制限であれば、まだ相続税対策としての活用の道はあるように感じます。

例えば、私個人が4億円の財産を持っていたとして、私が何の対策もしないで死ねば、この4億円に対して、丸々相続税がかかってきます。

これに対して、私がこの4億円の財産を一般社団法人に譲渡し、そのあと死んだとして、死ぬ前に一般社団法人の役員(取締役みたいなもの)として、私と妻と子ども2人を登録させておけば、4億円を4人で割って、相続税は1億円対する課税で済むことになります。

まあ、子どもたちまでは巻き込めない、としても、夫婦2人で理事をやっておけば、それだけで、個人資産を半額にすることができるので、個人的には、相続対策としての利用価値も、まだ残っていると感じています。

しかし、自販機スキームによる消費税還付のように、今後さらなる制限が追加される可能性もあるので、毎年の税制改正を注意してみていく必要があります。

出資持分がない・・・株式の移動がないので贈与税がかからない

株式会社において、「親から子へ」や「夫から妻へ」というふうに株式を移転させる場合には、無料で移転させるときには贈与税、金額を設定して売買するときには譲渡所得税、がかかってきます。

家族間で株式を移転するだけなのに、税金をとられるなんて、払う方からすれば「アホくさ」、と思うかもしれません(私も同感です)。

ただ、いかにアホくさくても、会社の業績がいい時や、内部留保が貯まっているときなどは、現実に税金がかかってくるので注意してください。

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この点、一般社団法人は、出資持分や株式というものがないので、贈与税も譲渡所得税もかかりません。

たとえば、一般社団法人の現在のオーナーが、「俺もいい年になってきたし、内部留保も貯まってきたから、子どもに法人を譲ろう」ということで、現オーナーが理事を退任して、新たに自身の長男が、一般社団法人の理事に就任した場合、この2人には、贈与税も譲渡所得税もかかりません。

この場合、法務局で理事の登記申請をする際に、登録免許税が1万円かかるのみです。

出資持ち分がない・・・配当の分配ができない

会社から社員や理事(オーナー的立場の人)へ、どうやってお金を流すか、という話です。

株式会社の場合、株主が役員を兼任している状態であれば(だいたい兼任していますが)、役員報酬もしくは利益配当、という形で、会社で稼いだお金を渡すことができます。

役員へお金を流すルートが2つある、ということです。

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これが、一般社団法人の場合は、株式がないため配当を支払うことができず、役員に対しては基本的には役員報酬しか払えません。

ルートは1つだけ、と考えておく必要があります。

もっとも、一般社団法人が解散するときに、残った財産を社員(株主みたいなもの)に分配したいと決議を取れば、それで財産の分配できてしまいます。

一般社団法人に残った財産を引き出せなくなる、ということにはならないので大丈夫です。

出資持ち分がなくとも・・・銀行借り入れはできる

3年ほど前に、一般社団法人の名義で、小ぶりな賃貸マンションを購入しました。

その際、金融機関から借り入れを利用しましたが、問題なく本部の許可を得ることができました。

当時の支店長は、一般社団法人に融資したり、一般社団法人の名義で賃貸物件を購入する、というのが初めての経験だったので(私もですけど)、少し戸惑っていましたが、最終的には全然大丈夫でした。

出資持ち分がない以外は、株式会社とだいたい一緒

簡単に、一般社団法人を使った賃貸不動産の保有と、相続税対策について書いてみました。

平成30年の税制改正は、「そうきたかー、もう不動産移しちゃったよー」と思うのと同時に、「そりゃあそうくるよねー」と、受け入れざるを得ない気分にもなりました。

資産家が、みんなして財産を一般社団法人に移転させたら、国は相続税取れなくなってしまいますからね。

今後、一般社団法人を使った相続税対策に、さらに厳しい規制が入るようなら、その時には改めて一般社団法人を残すかどうかについて、考えたいと思います。

あと、一般社団法人の社員の重任登記は、2年に1回です。

株式会社みたいに、10年間の任期延長というのはできないので、忘れないようにしましょう。

以上、ご参考まで。