お疲れ様です。
税理士の浅原です。
かつて、私に顧問税理士を変更したお客様の中に、
節税をしすぎて赤字決算になっている会社がありました。
身内の従業員への給与や、社長が所有者である会社の事務所の家賃を、
節税のために多めに計上したことで、本業では利益が出ていたのに、赤字決算になっていました。
節税のしすぎによる赤字決算について、どういうデメリットがあるのか書いてみようと思います。
節税のやり過ぎで赤字だと、節税になっていない
先日のブログでもご紹介したとおり、
本当に節税効果のある節税策というのは、実のところ多くはありません。
また、それらの多くは、軽めの個人所得に対する税率で課税を済ませてしまおうという、
会社所得に対する税率と、個人所得に対する税率との差分を利用する方法です。
つまり、会社の利益を個人に移転させて、会社名義で支払うよりも少ない税金で済ませているだけで、
支払う税金がゼロになる、というわけではありません。
たとえばよくある節税策のひとつ、
「社長自身の役員報酬や、身内である役員・従業員の給与を本来の額より多めに支払い、
その上積み部分を、あとで社長に戻してもらう」という場合、
給与を多めに支払っている時点で、受け取る側に課税される所得税・住民税は、
もともとの負担額よりも、上積みの分だけ多くなっています。
ほかにも、社長の所有である建物を会社の事務所として使っているときに、
会社から社長に事務所家賃を支払う、という場合も同様で、
払う会社側では経費になりますが、受け取る社長側では、不動産所得として、
所得税・住民税が課税されています。
そもそも、会社が赤字であるならば、会社側で負担する税金は、
基本的には県民税・市民税の均等割りだけとなり、税率の高い法人税や事業税は発生しません。
(消費税は、簡単に言えば粗利に対する税金であり、利益の黒字・赤字には関係がないので、本ブログでは省略します)
つまり、会社の方では、節税策も含めて「収支トントンで利益ゼロ」ならば、
節税の効果があった、と言えます。
しかしその反面、節税策のやり過ぎにより、
「利益ゼロ」を通り越して、多額の赤字を出してしまったならば、
その節税策により、個人名義で支払うことになった所得税・住民税は、
必要のない無駄な出費だった、ということになります。
節税策に取り組んでいる会社が赤字になっている場合、
そこでの節税策は、「意味がない」を通り越して、「無駄な出費を生んでいる」
というものになりますので、ぜひ、節税策を見直していただきたいと思います。
銀行は、赤字の原因が「節税策である」ということを考慮しない
運転資金を、銀行からの融資に頼っている場合、
決算の結果が赤字なのか黒字なのかについては、敏感になっていなければなりません。
銀行は、融資先の会社の決算が、赤字か黒字かについては、常に気を配っています。
決算が赤字か黒字かで、本部への融資申請の難易度が各段に違ってきます。
保証協会の反応や質疑応答も、赤字決算と黒字決算とでは、経験上、やりとりの回数が全然違います。
運転資金を銀行の融資に頼っている場合は、
資金繰りにゆとりがない、という場合が多いので、
無駄な出費を少しでも抑えようとして、
社長が節税策に積極的になるお気持ちは、よく理解できます。
特に、「銀行返済を進めるためには、利益を出さなければならない。
しかし、利益を出せば出すほど、税金で持っていかれる」というジレンマは、本当にシンドイもので、
決算書・申告書を通じて私にも伝わってきます。
それでも、銀行融資のある会社や事業者さんは、できる限り黒字決算を目指さなければなりません。
節税策を進めた結果、税金は抑えられたけど、
資金繰りが危うくなった時に、銀行からの融資を受けられないかもしれない、というのは、
節税と引き換えにするには、大きすぎるリスクです。
見合いが取れません。
上記の理由から、銀行融資のある会社や事業者さんが節税策をとる場合には、
黒字決算を維持できる範囲内にしておく必要があります。
まとめ
本来なら、黒字決算を組めていたのに、節税の結果、赤字決算になってしまった、
というときは、要するに「やり過ぎ」、ということです。
節税のやり過ぎは、税務調査でも目につきます。
調査官の指摘を受けやすくなります。
もし、そういうパターンになってしまっていると気づいたら、
年度途中からでも、やり直しが利くものは、やり直した方がいいと思います。
以上、ご参考まで。