【超簡単】「節税」と「課税の繰り延べ」の違い。理想の節税は「身内でお金を回すだけ」

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

節税策についてご相談を受ける中で、よく感じることのひとつが、

「節税」と「課税の繰り延べ」がごちゃごちゃになっている、ということです。

多くの経営者さんの頭の中では、この2つを同じ節税という括りで捉えているように感じます。

もっとも、この2つは、ネーミングからもわかる通り、

短期的には似たような効果があるものの、中長期的にはまったく異なる効果となります。

この節税と課税の繰り延べについて、整理してみようと思います。

お客様からいただいた子ども用の文房具。
いつもありがとうございます。
大切に使わせていただきます。

「節税」とは

文字通り、「税金の支払いを節約するもの」です。

節税策の結果、税金の支払いが減っていることが必要です。

ここで重要なのは、節税の目的です。

一般的な出費は、経費として認められる場合が多いので、

お金を払えば、たいていのものは経費になります。

経費が出れば、その分利益は減るので、節税効果があります。

しかし、節税の目的が、「会社にお金を残す」という点にあるとすると、

節税効果以上に出費がかさんでしまっては、目的が達成できません。

「会社にお金を残す」という目的からするなら、

運転資金を減らさない節税、すなわち出費を伴わない節税、を考えていかなくてはなりません。

出費を伴わない節税となると、次のようなものが考えられます。

  • 身内へ支払う役員報酬(給与)の増額

・・・もともとの報酬額が少なく設定されている人を対象にしたい。 

もともと報酬額の多い人について、さらに増額してしまうと、社会保険料も一緒に増額されてしまうため注意。

  • 出張手当て、出張日当の支給

・・・社内で出張規定や旅費規定を整備して、出張に伴い、手当や日当を出張者に支払うようにする。

支払う会社側にとっては、手当日当は、経費計上されて節税効果がある。

また、受け取る出張者側には、所得税や住民税がかからないので、出張者側にとっても節税になる。

もっとも、従業員がよく出張にでる事業所の場合だと、従業員に支払う手当て日当が増えることで、

会社にお金が残らなくなる可能性があるので注意。

  • 経営者所有(または身内所有)の事務所の家賃計上

・・・事業所として使用している建物が、経営者の所有、もしくは経営者の身内の所有の場合、

事務所家賃として賃料を支払うことで、払う側にとっては経費の増加となり、節税効果がある。

もっとも受け取る側にとっては、収入増により増税効果となるが、

家賃を払う側の税率よりも、家賃を受けとる側の税率の方が低い場合には、

その税率の差分が、全体で見た場合の節税効果となる。

  • タイミングを見極めての役員退職金支給

・・・役員の退任に伴い退職金を支払う場合には、非課税枠の範囲内で退職金を支給すれば、

払う方は節税となり、受け取る方は無税で退職金を受け取ることができる。

役員には、定年退職がないため、退任のタイミングを自由に選べる。

また、退職金の非課税枠は、勤続年数に応じて増加する。

「課税の繰り延べ」とは

課税の繰り延べとは、

「短期的にみると支払う税金は減ったが、

将来のとあるタイミングで、減った分の税金を支払うことになる」

というものです。

長期間のトータルでみれば、支払った税金の合計額は、

繰り延べ策をした場合も、しなかった場合も、同じになります。

よって、節税効果は、前述の節税策よりも限定的になります。

この課税の繰り延べは、「来期以降のことよりも、今期決算で節税することが重要だ」

という場合なら効果がありますが、

将来、帳尻合わせの課税が来る時のことも、セットで考えておかなくてはなりません。

(「将来のことはわからないから」と言って考えない経営者さんも多くいますけど)

課税の繰り延べには、次のようなやり方があります。

  • 生命保険契約

・・・支払った保険料は経費に計上し(節税)、将来の満期保険金収入は、利益となる(課税)。

満期のタイミングに合わせて、役員退職金を支給したり、大規模修繕の資金にあてたりすれば、

将来の帳尻合わせの課税を打ち消すことができる。

  • 設備の転売

・・・高級車や投資用マンションなど、中古流通ルートが確立されているものについて、

購入時に支払った金額は経費計上し(節税)、将来の転売収入は、利益となる(課税)。

課税の繰り延べ策は、その性質からして、取り組む期間が長期になる場合が多いです。

加えて、長期間に及ぶということは、想定外の事情や、不確定要素が介入しやすい、という面もあります。

仮に、保険会社が倒産しても、

「保険機構によって、すでに締結された保険契約は保証される」というのは聞いたことがありますが、

転売スキームなどは、保有中に劣化や故障で価値が減ったり、相場価格が変動したり、

ということがあり得ます。

会社の事情にもよりますが、個人的には、課税の繰り延べ策は、

お金の潤沢にある会社が取り組むものであり、節税策と同じ括りで検討するようなものではない、

と感じています。

一番いいのは、節税を考えないこと

私は、税理士になる前の会社員時代から、それなりに節税策について考えてきましたが、

本当に効果のある節税策というのは、思いのほか少ないという印象です。

また、節税策をごちゃごちゃと考えていると、のびのびとした思考ができなくなり、

自分も会社も一回り小さくなってしまったような気分になります。

私が思うに、経営者は、財務面においては、

「売上を最大化して、経費を最小化すること」

「当面の資金繰りが持つかどうか」という点だけ、気にしていればいいと思います。

それらを推し進めることで、黒字経営を維持できるようになりますし、

資金繰りも心配ない状態を作れます。

そのうえで、経営者のパートナーである税理士が、

経営状況を見ながら効果のある節税策を提案していく、

というのが、一番効率的だと思います。

以上、「節税」と「課税の繰り延べ」の違いについて、整理してみました。

ご参考まで。