「白色申告」でも不利ではない場合

お疲れ様です。

静岡の税理士、浅原です。

先日、税務署主催の無料税務相談会に、当番税理士として出席した際、

久しぶりに目にするものがありました。

白色申告です。

私の場合、年に一度、ここでしか目にすることはありませんが、

「そういえば白色申告ってあったよな」、と懐かしい気分になりました。

税理士が、申告方法について情報発信する場合は、

ほとんどが青色申告を前提にしています。

白色申告よりも、青色申告の方が、税理士としての能力を活かせますし、

税務上の特典も多いです。

もっとも、個人的には、納税者さんの状況や考え方次第では、

白色申告もありです。

「青色ありき」で考える必要はありません。

年に3回くらいする外食のうちの、本年1回目。

青色申告のメリットが活かせない

青色申告や白色申告に関する情報は、多くの別のサイトで紹介されていますので、

ここでは割愛します。

では、白色申告でも問題ない場合とは、どのような場合なのかというと、

「青色申告のメリットが活きてこない場合」です。

とすると、問題になるのは青色申告のメリットとは何か、になります。

代表的なメリットについて、ひとつずつ見てみます

最終赤字について、3年間の繰り越しが認められている

その年の決算が赤字になった場合、

その赤字を切り捨てることなく、翌年以降3年間にわたり繰り越しを行い、

翌年以降の黒字部分と相殺することができる、という特典です。

そうすることで、黒字の時に発生する税負担を、抑えることができます。

白色申告には、この赤字の繰り越しは認められていません。

しかし、だからと言って、納税者さんの状況次第では、

「青色よりも不利」、というわけでもないです。

白色申告の場合、この赤字の繰り越しは認められませんが、

「赤字の損益通算」は認められています。

赤字の損益通算とは、簡単にいうと、

「個人事業の赤字は、その年のほかの黒字と相殺できる」ということです。

つまり、その納税者さんに、個人事業以外の不動産所得があったり、

給与所得があったり、雑所得があったりする場合に、

個人事業の赤字を、それらの黒字と相殺できる、ということです。

それらの黒字と相殺した結果、赤字の全部、もしくは大部分が吸収されてしまったら、

赤字を翌年以降に繰り越せる、というメリットは、もう必要のないものになります。

または、そもそも赤字にならないようなビジネスをしている場合も、同様です。

税理士業もそうなのですが、

人工派遣や日当ベースの労働集約型のビジネスの場合、仕入れもなく、かかる経費も少なく済みますので、

規模が小さくても、黒字をキープできている場合が多いです。

そうなると、そもそも、赤字自体が発生しないので、

赤字を繰り越せるよ、と言われても、メリットを感じられないでしょう。

このようなパターンの場合には、白色申告でも問題ありません。

青色事業専従者へ支払った給与が、経費として認められる

青色申告を選択していると、

自分の家族が自分のビジネスを手伝ってくれた際に支払った給与は、経費として認められます。

(前提として、青色申告でない場合は、家族に支払った給与は、経費として計上できないとされています)

自分の家族に払った給与を、自分のビジネスの経費にできる、ということは、

すなわち、利益の分散による節税ができる、ということです。

(本当に家族に対して、いちいち給与の支払いをしているかどうかはわかりませんが、支払ったか否かの事実は重要ではなく、その家族が本当に手伝ってくれたのかどうかという事実が重要です)

では、白色申告の場合に、家族へ支払った給与は経費に計上できないのか、というと、

結論としては「できない」のですが、

その代わりに、「事業専従者控除」が認められています。

これは、一定の要件を満たす家族(生計同一、15歳以上、6か月以上の期間、など)が、

ビジネスを手伝ってくれたときには、

配偶者ならば86万円、配偶者以外の家族なら一人につき50万円の控除を認める、

という制度です。

このように、

「青色事業専従者への給与として、自由に給与額を決められる」、というものではないにせよ、

白色申告だったとしても、「手伝ってくれた家族の存在」について、

税金計算上、ちゃんとカウントはしてくれます。

それにそもそも、家族のだれも手伝ってくれない(うちのことですか)、

または、まだ独身という場合(親が手伝ってくれる場合は別です)には、

専従者給与の問題は出てきません。

よって、納税者さんの状況次第では、

この点に関する青色申告のメリットも、活きてこないことになります。

30万円未満の資産は、一括償却が認められる

本来なら、10万円以上の備品購入の際は、

いったん資産に計上して、少しずつ減価償却計算を経て、

経費計上していくことになります。

しかし、青色申告を選択していると、

「10万円以上、30万円未満の備品関係」を購入した場合には、

その時点で、全額経費計上が認められます。

まあ、これが「100万円未満の・・・」というなら、

少しはメリットを実感できるかもしれませんけど、

30万円未満では、あまり「青色申告を選択していてよかった」という実感はありません。

それに、そもそも、個人事業レベルで、高額な備品類を頻繁に買うことはありません。

個人的には、この特典を理由に青色申告を選択することは、ありえません。

65万円の青色申告特別控除が認められる

複式簿記を使って、会計データを作成している場合には、65万円の特別控除が認められます。

青色申告を選択する理由、そして、一番大きなメリットがこれになります。

この65万円の特別控除額は、所得税の計算のみならず、

住民税や国民健康保険料の計算上も、控除計算に使われることになります。

仮に、個人事業をされている方で、

65万円の特別控除を差し引いたあとの課税所得金額が100万円だったとしましょう。

この場合、65万円の特別控除によって節約できる出費は、次のような計算になります。

所得税分 650,000円 × 5% = 32,500円

住民税分 650,000円 × 10% = 65,000円

国民健康保険料分 650,000円 × 約10% = 65,000円

合計  162,500円

16万円強、という金額は、けっこうインパクトがあります。

それなら、青色申告しようなか、という気分にさせてくれます。

ご自身で、複式簿記を勉強して自己申告でやろう、という方であれば、

青色申告をお勧めします。

複式簿記がわからなくても、最近の会計ソフトを使えば、

自動的に複式簿記の形式に整えてくれるので、便利です。

ただ、もし申告作業を税理士に依頼しよう、というお考えであれば、

この特別控除額による節約部分は、税理士報酬として消えていくことを覚悟しておきましょう。

または、

「扶養家族が多いので、扶養控除の計算を入れると、課税所得は出ない(もしはくかなり少ない)」とか、

「個人事業の方は規模が小さいので、65万円の特別控除前の利益はごくわずか(50万円くらい)」

という場合には、

青色申告による65万円の控除があってもなくても、税金計算の結果は、

ほとんど変わりません。

65万円の特別控除以外に、基礎控除48万円があるからです。

まとめ

以上、見てきた通り、

事業の規模が小さいゆえに、もしくは事業の性質上、

「赤字にはならないものの、利益が少ない」または、

「赤字だけど、他にも所得がある」という場合には、

青色申告のメリットは、ほとんどなくなります。

そのような場合でも、確定申告自体はしなければなりませんので、

どのような形で申告作業を行うか、考えておきましょう

申告作業の組み合わせを、参考に書いておきます。

「青色申告+自分で申告」

・・・理想形。最後はここに持っていきたい。

「青色申告+税理士に依頼」

・・・従業員を雇用している場合など、事業規模が大きくて、ご本人はビジネスに専念したい場合。

「白色申告+自分で申告」

・・・事業規模が小さい場合。利益が少なく、税理士報酬も節約したい場合。

「白色申告+税理士に依頼」

・・・お勧めできません。青でも白でも、税理士報酬はだいたい同じなので、それならば青色申告にしておきましょう。

〇〇するべき、

〇〇しなければならない、

という考え方に囚われないよう、日頃から注意したいものです。

ネット情報や税理士側の情報に踊らされず、

ご自身にとって最もマッチする申告方法を選ぶよう心がけましょう。