税務調査と重加算税。提出する資料は最小限にしよう。

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

新型コロナの影響で、しばらく動きがなかった税務調査ですが、

コロナの一旦の収束とともに、再び動きが活発になってきたように思います。

私のお客様のところにも、今後、税務調査が入る旨の連絡がありました。

私はいままで、経験した税務調査は、

法人と個人事業の調査が10件前後、相続税の調査が2件です。

調査の結果、何の指摘もなく終わることも多いのですが、

忘れられない苦々しい思いをしたこともあります。

その苦々しい経験のうちの一つについて、書いてみようと思います。

風が強い1日でした。爽快な秋晴れです。

自信のあった調査で、ミスに気付く

そのときのお客様は、戸建て建築をメインに、

大小のリフォームも併せて受注している工務店さんでした。

初めて住宅を建てる人向けのセミナーを自主的に開催して、

積極的に営業活動を行っている優秀な社長さんでした。

営業活動と現場の職人さんたちのとりまとめは、社長が行い、

事務の取りまとめと税理士とのやりとりは、社長の奥様がやっていました。

あるとき、その工務店さんに税務調査が入るとの連絡が税務署からあり、

私が同席したうえで、2日間の調査が行われました。

工務店などの「商品一件ごとの請負単価が高額になる会社」の場合、

重点的にみられるのが、決算日と売上計上時期の関係です。

この工務店さんの場合ですと、

「決算日までに、完成引き渡しが行われた工事」・・・今期の売上に計上

「決算日以降に、完成引き渡しが行われた工事」・・・翌期の売上に計上

という関係になります。

さらに細かく見ていくならば、

「決算日までに仕入れた原材料で、手つかずのもの」・・・今期の資産に計上

「着工したけど、決算日時点で未完成の工事」・・・進捗率に応じて、今期の資産に計上

というものも、カウントしなければなりません。

調査官は想定通り、調査の初日から、決算日周辺のお金の出入りのチェックに入りました。

工務店の場合、税務調査では、必ずチェックされることはわかっていたため、

奥様には、完成した工事とその工事代金の入金額を集計する表を作ってもらっていました。

その表を見れば、今期に完成した工事と、代金の入金状況が、一目でわかります。

私はその表を見ながら、工事の完成時期と帳簿上の売上計上時期が一致するように、

会計帳簿を作成してきていますので、特に指摘されることはないだろう、と思って

ゆったり構えていました。

すると、調査官が手を止めて質問してきました。

「『請求書に書かれている工事完了日』と『集計表に書かれた工事完了日』が違うものがいくつかあるけど、どういうこと?」とのこと。

奥様に聞くと、

「集計表は奥様が作成しているけど、請求書は社長が作成している。

そして、工事完了日は、社長や職人さんに確認できたものはその日付を書いているけど、

細かいリフォーム工事では、完了日は確認できないものがあって、

その場合は入金日から推測して、完了日を書いておいた」とのことでした。

マジか・・・と、私は一瞬青ざめましたが、見ると、調査官は、

ある程度心象を固めてから質問をしてきたようで、じっとこちらのやり取りを眺めています。

ここにきて、下手な言い訳はドツボにハマる、と思い、

集計表の記載ミス、ひいては売上計上時期のミスを認めました。

静岡は、山と海に囲まれています。

単なる書類の書き間違いで、重加算税

結果的に、決算日をまたいで入金したリフォーム工事のうち、

いくつかのものが、記載ミスとなりました。

先の例でいうと、

「翌期の売上に計上しておいたものが、本当は今期の売上だった」、ということです。

「事実と異なる売上計上をしてしまったのなら、さすがに言い逃れはできない」とあきらめて、

過少申告加算税の15%は覚悟しよう、と思った矢先に、調査官から言われたのは、

「これは、重加算ですね」という言葉でした。

私は慌てて、

「単なる売上の集計ミスを、重加算とはどういうこっちゃ。どこに故意があるのか」ということを、

丁寧な言葉で聞き返したのですが、

調査官曰く

「請求書の日付が明確になっている以上、集計表の記載ミスは、意図的に行われた可能性が高い」と、

私からすると言いがかりとしか思えないようなことを、主張してきました。

社長も奥様も、さっぱりした性格の方たちで、

事実を捻じ曲げてまで、自分たちの利益を確保しようというような人たちではないことは、

いままでのお付き合いで、よくわかっています。

さらに、「売上の計上時期を1期分ずらすだけ」なんて、

税務上、リスクはあるのにメリットはほとんどない、ということは、

社長も奥様もよくわかっています。

「そんなこと、故意で仮装処理なんてするわけがない」と、

何日もかけて反論を続けましたが、最終的に税務署は、

「重加算税は譲れない。もし重加算税をのんでくれれば、ほかの指摘事項は全部譲ってもよい」

と言い始めました。

社長も、長いこと、不毛なやり取りをすることに疲れてきており、

最後は、「重加算税は受け入れる、ほかの指摘事項はなし」で、着地することになりました。

風になびくススキと流れる雲、秋です。

この調査からわかること

私は、この調査から、つぎのようなことを学びました。

調査官は「重加算税を指摘できる」と感じたら、とことん押し込んでくる

今回の件、当然ながら私も、

「単なる事務処理のミスであって、過失は認めるが故意はない、『仮装処理』など、みじんも考えてない」

としつこく主張しましたが、まったく聞く耳を持ってもらえませんでした。

あげくに、「重加算税を受け入れれば、ほかの指摘事項は取り下げてもいい」と、

トータルでの納税額が下がるにも関わらず、交換条件を出してきました。

このときに、以前からあった疑念(税務署内部では、「重加算税案件」を挙げてくることが、

もっとも調査官自身の勤務評価や賞与査定に影響するのだろう)が、

より深まりました。(あくまで推測ですが、半ば確信しています)

別の調査のときも、重加算案件につながりそうだ、というときの調査官は、

明らかに目の色が変わっていました。

こうなってしまうと、調査は長期化することを覚悟した方がいいかもしれません。

二次資料(集計資料)の危険性

奥様が作成された売上の集計表。

これが、今回の税務調査が大ごとになってしまった発端でした。

(私が、一次資料たる請求書の日付をしっかり確認しておけばよかったのは、承知しています。

そのことでは社長に謝罪しました。しかし問題はそこではありません。)

もし、この集計表がない状態で、単に、売上の計上時期を翌期にずらしていただけならば、

重加算税ではなく、それより軽い過少申告加算税で済んだ可能性が高いです。

なぜなら、この集計表こそが「仮装の事実」と指摘されてしまったからです。

会社側からすると、完全に言いがかりですが、

税務署からすると、納税者の「そんなことないよ、ただのミスだよ」の一言で済ませてしまっては、

真の重加算案件を逃がしてしまう、という危機感があったのかもしれません。

この件以降、税務調査の際に調査官の目にさらす資料は、

請求書や領収書といった一次資料(集計前のもの)に限った方がよい、と考えるようになりました。

夫婦間での情報共有が不完全

「事務をやっているのが社長の奥様ならば、社長との情報共有はちゃんとなされているだろう」、

と思いがちですが、意外と、状況共有できていない場合があります。

夫婦仲が悪い、という場合は、もちろん私も注意しますが、

夫婦仲に問題はなく、奥様も事務仕事に対して責任感もやる気も十分ある、という場合でも、

残念ながら諸般の理由により、うまく情報共有できていなかった、ということが、

この工務店さん以外でも、目にしたことがあります。

これを解決するのは、やはり担当する税理士の「慎重な姿勢」、

それしかないだろう、と感じます。

「念のため、いちおう見せて、念のため」の精神で、

うっとうしがられるのを覚悟して、確認作業は慎重にやっていこうと思います。

カバと筆者。慣れた場所こそ、何事も慎重に。

まとめ

以上、過去の税務調査での経験について、まとめてみました。

まだほかにも、調査対応で失敗したケースがあるので、別のブログに書いてみようと思います。

ご参考になれば、幸いです。