相続財産は誰のもの?「死んでから」よりも、「生きている間」を大切にしたい

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

贈与税の110万円の基礎控除について、

廃止の方向で動いていることは、先週ブログに書きました。

このことは、資産の多いご家庭においては、

相続税対策の選択肢が減ってしまう、という点で、

切実な問題になってくると思います。

相続税に限らず、およそ税金問題というのは、

事前に対策をとっておいたかどうかで、結果がだいぶ変わってきます。

私自身、税理士試験で、相続税を受験していたこともあり、

「相続税は得意な税目」という意識があったので、

かつては、積極的に相続税対策について、お客様に提案していました。

しかし、あることをきっかけに、スタンスを変えることになりました。

現在私は、理想的な相続税対策は、

「相続財産に期待しないこと」

だと思っています。

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とある社長とのやりとり

かつて、私が顧問税理士をしていたお客様のお話です。

ご自身の事業で財産を蓄えてきた社長と、

その子ども世代で運営していた会社がありました。

社長は、年齢が70を過ぎた現在でも、まだまだお元気で、

事業意欲の衰えなど微塵も感じさせずに、外国に商品の買い付けに行っていました。

そんな感じの社長なので、

子ども世代は、高齢の社長がもっている財産が気になっていましたが、

社長は、相続税対策には興味がなく、なかなか相続税対策は進みませんでした。

あるとき、子ども世代の人達から、

「税理士さん、うちの父親に、相続税対策を進めるよう説得してほしい」と頼まれ、

社長と話をすることになりました。

浅原「社長、お子様たちが、社長がお持ちの自社株やほかの財産について、何かと気を揉んでいるようです。相続税対策について、一度お話をきいてもらえないでしょうか」

社長「相続っていうのは、俺が死んでからの話だろ。いま、どうのこうの言ったってしょうがないだろう」

浅原「そりゃそうなんですが、社長がお亡くなりになってからでは遅いのですよ。社長はけっこう財産をお持ちなので、後に残るお子様たちに、多額の相続税がかかってくる可能性があるのですよ」

社長「相続税が払えるくらいの現金は残しておく」

浅原「まあでも、事前に対策をしておけば、相続税も少しは安く抑えることができますよ」

社長「俺は、まだ生きて仕事をしているんだ。もうすぐ死ぬ人間みたいなこと言うな(怒)」

ごもっとも。

返す言葉がありませんでした。

(私の説明も悪かったと思います)

社長は、ご自身がお持ちの財産を、

「次のビジネス展開に向けたリソース」、ととらえているのに対し、

お子様たちの頭の中には、

「私がもらう財産なんだから、これ以上使い込まないで」

「相続税を払うのは私たちなんだから、税金対策を進めてよ」

というお考えでした。

社長も、相続税対策の必要性は理解していましたが、

それ以前に「仕事大好き、仕事が生きがい」、という人です。

相続税対策には、

財産とその所有者を切り離していく、という作用がありますので(全部が全部ではありませんが)、

私の話を聞くにつれ、仕事を取り上げられてしまう、という印象を持たれたのかもしれません。

あと、「相続」には、当然の成り行きとして「死」が絡んできます。

体の衰えに歯向かいながら、仕事に夢中になっている70代の人の意識を、

強引に、自分が死んだ後のことに向けさせる、というのは、

冷静に考えてみれば、酷なことをしてしまったな、と反省しました。

相続財産は、あくまで「お父さんお母さん」のもの

私は、この社長とのやりとり以後、

相続税対策全般について、次のように考えるようになりました。

相続財産は、将来的には相続によって、お子様たちの財産になりますが、

お父さんお母さんがご存命のうちは、所有者は、あくまでお父さんとお母さん。

所有者の気持ちを無視した相続税対策は、やめよう。

お父さんとお母さんの気持ちを、相続税対策に誘導するのもよくない。

お子様たちも、相続財産を当てにせず、ご自身で財産を築くべし。

「お父さんとお母さんが築いてきた財産は、お父さんとお母さんの手で、使い切っちゃってね」

それくらいの気持ちで行くのがいい。

私はそれが、一番の相続税対策だと思っています。

まとめ

私の相続税対策へのスタンスについて、書いてみました。

そもそも、他人から財産を受け取るには、

本来なら、「買う」か「もらう」しかありません。

「買う」ならば、代金の支払いが必要ですし、

「もらう」なら、相続税よりもよほど高い贈与税を支払う必要があります。

その点、「相続する」だったら、「買う」や「もらう」よりも、

よほど安価なコストで、受け取ることが可能になります。

その時点で十分、相続人たちの優位性は、保たれているように思います。

前述したような私のスタンスは、ある意味で、

税理士の仕事を放棄してしまっているようにも見えます。

しかし、世の中には、節税よりも、もっと楽しいことがあります。

あるはずです。

お父さんお母さん、そして同世代の年配の人たちには、

できるだけ財産や税金のことは、あまり気にせずに過ごしてもらえるよう、

気を配っていきたいと思っています。

なお、お父さんお母さん側が、

自ら相続税対策を進めておきたい、というお気持ちでいる場合には、

私も積極的に、ご相談に乗らせていただいております。

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