贈与税110万円控除の廃止の延期。「扶養義務者間の生活費・教育費の非課税」もうまく使おう

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

先日、発表された令和4年度の税制改正大綱では、

贈与税の110万円の基礎控除の廃止については、

見送られることになりました。

もっとも、税制大綱の本文には、

「今後、諸外国の制度も参考にしつつ、

相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から

――(省略)――

資産移転時期の選択に、中立的な税制の構築に向けて、

本格的な検討を進める。」とあります。

また、その続きで、

「(省略)贈与税の非課税措置は、

限度額の範囲内では家庭内における資産の移転に対して、

何らの税負担も求めない制度となっていることから、

その在り方について――(省略)――

不断の見直しを行っていく必要がある。」となっています。

これを読んだときに、感じたことを書いてみようと思います。

【参考ブログ】

高齢者の定期預金に関するリスク

花でつくられたクマの像。
ライトアップされると、顔の陰影が、
日中とは違った雰囲気を見せてくれます。

方向性としての増税路線は、確定している

大綱の本文中で、

「本格的な検討」に加えて「不断の見直し」というわけですから、

やはり近年のうちに、贈与税の110万円の基礎控除は、

廃止、もしくは縮小ということになるのでしょう。

制度の在り方うんぬん、というよりは、

これだけ新型コロナの対応で財政出動しているとなれば、

当然ながら、国側も収入を増やしていかなくては収支のバランスがとれませんから、

この贈与税の基礎控除廃止にとどまらず、

今後の増税拡大路線は間違いなく訪れる、と感じます。

さて、この点を踏まえて、今できることとしては、

この贈与税の基礎控除が残っているうちに、

できるだけ、基礎控除の範囲で、贈与を進めておくことです。

どの財産の贈与を優先すべきか

次回発表される令和5年の税制改正大綱では、

贈与税の110万円の基礎控除が、廃止となる可能性があります。

そうすると、確実に、この110万円の基礎控除を使えるのは、

「令和3年」

「令和4年」、

そして、贈与税の計算期間は、1月1日がスタートであることを考えると、

税制改正大綱の公表時期と、改正法の施工時期のタイミングとの兼ね合いで、

「令和5年」

もまだ使えるものと思われます。

よって、残るチャンスは、今年も含めて「あと3回」。

この3回のチャンスの中で、どの資産を優先的に贈与していくか、

大まかに資産ごとに、まとめてみました。

自社の株式

将来的には、株価操作が可能であること。

加えて、非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予の規定もあるので、

贈与の時期は後回しでもよい。

不動産

土地にしても建物にしても、

生前贈与ではなく、相続による財産移転を選択した方が、

移転コストを低く抑えることができる。

(相続税の方が、贈与税よりも安価で済むし、登録免許税や不動産取得税も、相続の方が安価。) 

特に、建物は、築年数が古くなれば、固定資産税評価額も下がり、

さらに移転コストも全体的に下がるので、相続で移転させた方がお得。(小規模宅地の評価特例もあるし)

金融資産(主に保険契約)

保険契約の評価額は、解約時の返戻金をベースに計算されるので、

解約返戻率の少ない時期に移転させるのが良い。

よって、急いで生前贈与するか、焦らず相続を待つかは、保険契約の内容次第。

もっとも経験上、解約返戻率が元本の100パーセントを超えることは、あまりないし、

あっても一瞬(2~3年の短期間だけ)なので、

現金預金よりは、贈与による早期移転のニーズは低い。

金融資産(主に現金預金)

いま現在、100万円の預金をもっているとして、

それを相続発生時まで使わなければ、価格は同じ100万円のまま。

つまり、相続時でも贈与時でも、価格は同じ。

贈与税の基礎控除の範囲内ならば、相続まで待った方が有利になるということはないので、

相対的に、贈与の優先順位は高い。

まとめると、優先順位は

①現金預金 → ②保険契約 → ③自社株式 → ④不動産 

という順番になります。

あとは、「自社株の価格が今後上がりそう」とか、

「いまなら、保険契約の解約率が低い」とかの、

個々の事情に合わせて検討していけばよいと思います。

あと、不動産だけは、相続まで待った方が、

多くのパターンでお得になるだろうと思います。

青葉通りのイルミネーション。
去年も来たな、1年経つの早いな、
としみじみ思います。

もうひとつの気軽な贈与

巷では

贈与税の基礎控除が廃止されると困るのは、

財産の移転が進まなくなること、

すなわち、相続税対策への影響が大きいと言われています。

もっとも、私の感覚では、

この贈与税の基礎控除を使った財産の移転は、

親子間や親族間での気軽な資金援助にもよく使われている、

と感じます。

今後、この基礎控除がなくなると、気軽な資金援助もできなくなるか、というと、

そういうわけではありません。

贈与税の制度の中には、

「扶養義務者相互間における生活費や教育費の非課税」、

というものがあります。

簡単にいうと、扶養義務のある身内同士で、生活費や教育費の援助をした場合は、

その援助資金には、贈与税はかからない、という制度です。

この制度をしっかり使っておけば、

ある程度、上の世代から下の世代への財産の移転は、

贈与税がかかることなく、進められると思います。

ひとつずつ、項目をみておきます。

「扶養義務者」の範囲

父母、祖父母、曽祖父母、兄弟姉妹といった、法律上の扶養義務のある者

「生活費」の範囲

食費・家賃・水道光熱費などの生活費、引っ越し費用、結婚に関係する費用、出産費用、治療代、

子育ての養育費などで、社会通念に照らして妥当なもの

「教育費」の範囲

子や孫の教育に必要な学校の授業料(義務教育に限らない、高校、大学、大学院も可)、修学旅行代、

通学費用、学習塾の利用料、教材・文具代などで、社会通念に照らして妥当なもの

援助のタイミング

援助を必要とする都度、そのタイミングで援助する必要がある。

孫の大学の授業料を、4年分まとめて一括で援助、だと

非課税とは認められない。

日々の生活の相互扶養を根拠にした制度なので、

特殊な要件はありません。

極端なことをせず、常識の範囲に収まっている援助なら、

贈与税課税の問題が出てくることはないはずです。

この制度が使える財産は、制度の性質上、ほとんどが現金預金になりますが、

上の世代からの財産移転を進めたい人は、うまく使ってもらえばいいと思います。

まとめ

今後の増税時代に向き合っていくには、

ある程度の税金に関する素養が必要になってくるかもしれません。

ただ、税理士をやっている私がいうのも何ですが、

「節税」とか「税金対策」という話は、決しておもしろいものではありません。

正直に言えば、つまらない。

せめて、お父さんお母さんや、年配の世代の方たちは、

このテーマには巻き込みたくないな、というのが私の本心です。

相続財産は誰のもの?「死んでから」よりも、「生きている間」を大切にしたい