【税理士解説】個人事業を「法人化」。効果の有無は、目的によります。

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

先日、賃貸経営の方でお世話になっている業者さんから、

「現在の自分の個人事業を、株式会社にしようか、迷っているんだけど」

ということで、ご相談を受けました。

頼りにしている方から相談を受ける、というのは、嬉しいものです。

個人事業を法人にする、いわゆる「法人成り(ほうじんなり)」について、

私の考えを書いてみようと思います。

下の子(7歳)を買い物に連れていくと、
必ず、取るに足らない玩具を買うことを要求されます。
買わないと、私の腕を、
ものすごい力で引きちぎろうとしてきます。
取るに足らないカエル、110円。

法人にしようと思った理由が重要

「なぜいま、法人にしようと考えたのか」という点が、とても重要です。

その理由次第では、法人化をする必要がないばかりか、

法人化しない方が良かった、という状況になってしまう可能性もあります。

法人化の理由は、1つではないことが多く、通常は複数の理由があるものですが、

ご自身の思考と気持ちを整理して、優先すべき理由を、順に明確にしておくことが大切です。

以下、私がいままで相談を受けてきた経験の中から、法人化の目的に沿って、整理してみます。

節税のための法人化

「法人にした方が、個人事業でやっていくよりも、節税になるって聞いたんだけど」という、

節税目的による法人化が、今まで相談を受けた中では、一番多いと感じます。

私はいつも、この相談を受けると、

「節税にはなるかもしれないけど、手元に残るお金は減るかもしれませんよ」と答えています。

法人化したことで節税が可能になる項目は、次のようなものがあります。

法人化による節税項目

役員給与

いままで生活費として処理していたものが、法人になると「給与扱い」となり、経費に計上できるようになる。

税率が下がる

利益水準によっては、個人事業の所得税よりも、法人税の方が、税率が低くなる可能性がある。

(所得税では、年間利益が330万円を超えると20%、695万円を超えると23%、900万円を超えると30%かかってくるが、法人税では、年間800万円以下の利益は15%、800万円を超えると23.2%となっている。なお、個人でも法人でも、これ以外に住民税や事業税もかかってくるが、長くなるので省略します)

法人設立後、最初の2年間の消費税免除

一定の要件の元、法人設立後の最初の2年間は、消費税の納付が免除されます。

もっとも、令和5年10月1日からインボイス制度が始まることによって、

最初の2年間の免税メリットは、なくなる可能性が高いです。

(すでに、この本ブログを記載している時点で、最大とれる免税期間は「1年11か月」です)

もし、この2年間の免税メリットが欲しくて、法人化を検討しているという方は、

今すぐ法人化する必要があります。

お菓子を買ってやる、と言っているのに、
プラスチックを欲しがる7歳のマイサン。
プラスチックでは、空いたお腹は満たされない。
取るに足らないナポレオンフィッシュ、268円。

法人化のデメリット

上記の節税効果に対して、法人化することによるデメリットは、何かにつけお金がかかる、という点です。

具体的には、次の通りです。

法人の設立手続きにお金がかかる

法務局への登記費用で20万円強のお金がかかります。

設立のときだけです。

許認可の取り直しにお金がかかる

例えば、建設業の場合は、法人化する際には、県の認可を取り直さなければなりません。

(確かそうだった記憶があります)

行政書士さんに依頼するなら、やはり費用がかかります。

赤字でも税金がかかる

赤字でも黒字でもかかってくる7万円くらいの均等割りという税金が発生します。

毎年です。

65万円の青色申告特別控除が受けられなくなる

法人には、この65万円の控除はありません。

社会保険に加入しなければならなくなる

これを辛いと感じるかどうかは、人によると思いますが、

「法人」にして「給与支払い実績あり(社長も)」となると、社会保険に加入する義務が生じます。

役員給与の金額にもよりますが、

国民年金や国民健康保険よりも、高額な保険料になることが多いです。

税理士に依頼する手数料がかかる

個人事業のときには、公的サポート(税務署の無料相談会や青色申告会とか)を利用して、

自力で帳簿や決算書を作成していた人も、法人になると、それらは税理士に依頼する必要がでてきます。

帳簿作成は、まだ自力でなんとなかるかもしれませんが、

決算処理や法人税の申告書は、税理士でないと難しいと思います。

安く抑えたとしても、年間20万円くらいは、見込んでおく必要があると思います。

いったんまとめ

この通り、節税のために法人化をしたとしても、

節税額以上に、法人化による経費が嵩んでくる可能性があります。

事業規模によっては、

「手元に残るお金を増やそうと思って法人化したのに、思ったほど残らなかった」、

ということもありえます。

仮に、個人事業の段階で、会計帳簿や決算書の作成を税理士に依頼しており、

税理士への報酬額は、法人設立後もそんなに変わらない、という場合なら、

税率差による節税メリットは大きくなります。

こんな感じで、事業主さんごとに個々の事情を拾って、

法人化により目的が達成できるのかどうか、検討していく必要があります。

取るに足らないどころか、触りたくもないヘビ、110円。
せめてブログ用の写真に使うことで、
ドブに捨てたお金を回収しようとする父親。

事業拡大のための法人化

新規顧客を開拓していくにあたり、

個人事業として営業するよりも、株式会社として営業した方が依頼を受けやすい、

という話もよく聞きます。

何かにつけ、個人事業というのは、舐められがちです。

ビジネスの内容にもよりますが、例えばラーメン屋さんや美容院とかですと、

お客様はラーメンそのものや、美容師さんの技術・個性そのものを目的にして来店してくれますし、

日々の生活になじみの深いものであれば、

お客様は、相手が法人かどうかなんて気にしないと思います。

それに対して、サービス内容について説明が必要になるようなビジネスだと、

お客様は防衛本能が働いて、少なからず警戒しますので、

お客様の防御姿勢を和らげるためにも、安心材料を提供したいところです。

そういう点で、「株式会社」というネームは、お客様にとっては印象が良いので、

前述のとおり、多少の経費はかかっても、法人化を進めていく、というのはアリだと思います。

(というより、これが本来の法人化だと思います)

実店舗があれば、それ自体がお客様への安心感につながるので、まだいいのですが、

「身一つで個人事業やってます」というときに、

まとわりついてくる貧乏くささ(本当ごめんなさい、悪気はありません)は、

できれば払拭しておきたいところです。

責任の切り離しのための法人化

上記の事業拡大目的がオフェンスならば、

こちらはディフェンス手段としての法人化になります。

たとえば、お客様に損失を与えてしまい、補償を請求されるような場合では、

個人事業の場合には、事業主個人が請求先になりますが、

法人化していれば、その法人が請求先になります。

つまり法人化していれば、法人と社長個人は、法律上は別人格ということになり、

法人の持っている財産の範囲内で(資本金が10万円なら、10万円の範囲内で)補償に応じればいい、

ということになります。

道義上、許されるかどうかは別にして、

人生を賭ける覚悟でビジネスをするよりは(誰しもビジネスをしている人は、人生を賭けているとは思いますが)、

失敗したときに責任を負う範囲を限定した状態でビジネスに取り組んだ方が、

私は落ち着て取り組めるように思います。(ご家族も、その方が安心かも)

他にも、自分の住所を表に出したくない場合にも、

法人化が使われることがあります。

窓にくっつくヘビを見て、喜ぶ我が子。
「みて!窓にくっついて、キモチワルー」
同感だが、まず先に、
部屋の中を片付けてくれ、マイサン。

法人化の決め手は何なのか

法人化をしたい、と思う動機は、人それぞれなので、何が正解かは一概には言えません。

本当かどうかはわかりませんが、

過去には、「社長」と呼ばれたくて会社にした、という人もいました。

節税目的以外のことで、法人化したいなら、わかりやすいと思います。

おそらくそれは、法人化という手段でしか目的が達成できない可能性が高いです。

迷うのは、やはり節税目的の場合です。

この場合は、

そもそも、やりたいのは「節税」であって、「法人化」ではない、からです。

節税目的で法人化するにしても、

売上高や利益水準が今後どのように推移していくか、はっきりわからない状況だと、

効果の有無は、やってみなければわかりません。

(追記:私の本音としては、節税だけを目的とした法人化は、やめておいた方がいいように思います。たぶん、法人設立したあと、個人事業の時にはなかった事務の煩わしさに⦅税理士とのやりとり、登記手続き、議事録とか社会保険とかの事務関係など⦆、嫌気がさしてくるのではないかと思います。そういうのが煩わしくないなら、いいのですけど)

法人化した後も、将来、個人事業に戻す、ということは可能です。

ですので、たとえば、

「損失覚悟で5年間だけ法人化してみる、その後どうするかは、その時考える」

ということでもいいと思います。

私の経験だと、「法人化」は、やってみなければわからない、というもののひとつだと思います。

以上、法人化について、迷っている方の参考になれば幸いです。