お疲れ様です。
税理士の浅原です。
会社の決算において、赤字になってしまった場合や、今後の赤字が予測される場合に、
役員報酬を減額するかどうかについて、迷うことがあります。
役員報酬を減額させれば、帳簿上は、経費削減になるので、黒字転換に向けた一歩となります。
赤字幅によっては、役員報酬の減額だけで、黒字転換できることもあります。
とはいうものの、中小企業においては、
会社の財布と社長個人の財布は、ほとんど同一といっても過言ではなく、
社長個人の収入がなくなれば、会社のお金を生活費に回すしかない、ということになりがちです。
そういう場合でも、役員報酬を減らす意味があるのかどうか、書いてみようと思います。

古くなっていました。要交換です。
目次
「黒字決算」自体が重要
先日のブログでも書きましたが、運転資金に銀行融資を利用している会社においては、
内容は何であろうが黒字決算を組んでおくことは、とても重要です。
会社に融資を行う銀行側から見れば、
赤字の会社にお金を貸すのと、黒字の会社にお金を貸すのでは、
銀行内での融資申請のハードルの難易度が、かなり変わってきます。
すでに銀行から借りている資金の折り返し融資や、新規の融資の際、
直近の決算書が黒字になっているかどうかで、銀行の担当者の対応は、ずいぶん違うものになります。
ですので、銀行融資が途切れるとマズい、という会社においては、
役員報酬を減らすことで黒字化できるならば、役員報酬を減らすことに躊躇することはありません。
さっさと役員報酬を減額して、黒字をキープできるようにしておくことをお勧めします。
(なお、役員報酬を減額するタイミングについては、顧問税理士とご相談されてからにしてください。
役員報酬額を期中で変更するには、税法上の制限があります)

自分で、何かのついでにやれば0円です。
社会保険料の負担が減少する
役員報酬の減額に伴い、健康保険保険料・厚生年金保険料が減少します。(会社負担分も本人負担分も)
これらの社会保険料が減少した分は、会社にとって経費削減になりますので、
少しでも会社の経費を抑えたいという場合には、役員報酬の減額は有効です。

会社のお金を生活費に回すと、「役員貸付金」が発生する
役員報酬を減らした結果、決算上は黒字化できたとしても、
社長個人の生活費が足りなくなり、その結果、会社のお金を社長の生活費に回すことがあります。
公私混同と言いますか、あまり良くないことではあるものの、
中小企業というのは「社長の人生そのもの」という面もありますので、致し方ないとも思います。
会社のお金は、出たものも入ってきたものも、すべて会計帳簿に記録されますので、
会社のお金を社長個人の生活費に使った場合には、「役員貸付金」、要するに貸付金として処理されます。
役員貸付金の問題点
前述のような事情から、役員貸付金が発生した場合に、
経営上、どのような問題が生じるのでしょうか。
重要な問題として、次の2点が考えられます。
問題① 返済するまで、利息を計上しなければならない
株式会社や有限会社は、営利活動を目的として設立された組織です。
そこから発生する解釈として、税務署は、
「会社が使ったお金は、すべて営利活動に対するものである」と捉えてきます。
その結果、役員に対する貸付金といえども、無利息という理屈は通じずに、
貸付金に対する利息を徴収することを要求されます。
「役員貸付金に対する利息」は、帳簿上は、「受取利息」として処理され、
結果的に会社にとって収入になります。
会社にとっての収入、ということは、もうお分かりの通り、
税金がかかってくる、ということです。
利息の利率については、貸付金が発生した年度ごとにパーセンテージが決められており、
国税庁のホームページで公表されています。
No.2606 金銭を貸し付けたとき|国税庁 (nta.go.jp)
もっとも、利率については、私の税務調査の経験では、調査担当者から
「現在、銀行からの借入があるようなら、その銀行借入の利率と同じ利率でいいですよ」
と言われることが多いです。
そこで、私の場合、銀行借入のある会社での利息処理は、
一番安い銀行借入の利率を拾ってきて、その利率で役員貸付金の計算をするようにしています。

問題② 銀行融資の際に、ネガティブに見られる
銀行から融資を受ける際には、必ず決算書の提出が要求されます。
そして、その決算書上に、
「役員貸付金 〇百万円」という形で、役員貸付金が計上されている場合、
「何に使ったのですか」と、必ず理由を聞かれます。
なぜなら、銀行は、自分達が貸したお金を、
運転資金や設備資金などの融資目的以外のことに使われてしまうと、マズいからです。
目的外使用を避けるため、銀行は、設備資金の場合は、その設備の売り主に対し、
直接が融資金額を振り込むことがありますし、
そうでなくても、その設備の売り主に振り込んだ証明(請求書と振込用紙や領収書)を求めてきます。
また、運転資金の融資の場合は、
運転資金として使ったすべての経費の振込用紙や領収書を提出する、
というのは現実的ではないので、
逆に、運転資金以外には使っていない、という状況を求めてきます。
しかし、そんな中で、帳簿上に「役員貸付金」の名称が出てくると、
運転資金ではなく社長の個人的な事柄に融資を使われたのではないかと、疑う余地が生じてしまいます。
そういった銀行側の事情から、銀行融資を当てにしている会社では、
「役員貸付金」は生じさせないようにしておくことが肝心です。
(なお、役員貸付金があるからといって、絶対に融資を受けられない、というわけではありません。
ちゃんとした事情説明と、今後役員貸付金が増えることはない、という安心感を与えることができれば、
融資を受けることは可能です)

役員貸付金は、早めに解消することが望ましい
いずれにせよ、役員貸付金が発生してしまった場合には、早めに解消するように努力すべきです。
期中に役員貸付金が発生しても、決算日までに解消できれば、
決算書上には役員貸付金の文字は表示されません。
ですので、できるだけ決算日までには解消できるように計画的に進めましょう。
まとめ
役員報酬の減額と、それに伴う役員貸付金について、整理してみました。
「運転資金や個人資金が潤沢にあるため、銀行融資を使う予定がない」とか、
「運転資金が尽きたら、会社を終わらせる予定」という場合には、
それほど気にする必要はありませんが、
資金繰りは銀行頼み、という状況にある会社さんは、
これらのことを気にしながら、検討されることをお勧めします。