「役員給与の変更期間」を長めに確保する方法

お疲れ様です。

静岡の税理士、浅原です。

通常は、役員給与額を変更できる期間は、「決算後3か月以内」ですが、

スモールビジネスを法人で運営している場合は、決算月を4月にすることで、

この役員給与の変更期間を、結果的に「決算後8か月以内まで拡大することができます。

(そういう制度があるわけではなく、あくまで「結果的にそうなる」という話です)

よって、特段の事情がない場合には、決算月は「4月」がお勧めです。

大きな鷹のオブジェ 
御殿場イルミネーションにて

役員給与の金額を決める難しさ

冒頭でも書きましたが、

会社から支給する役員給与(役員報酬と同じ意味)をいくらにするかは、

「直近の決算が完了してから3か月以内」に決定しなければなりません。

そして、いったん決めた役員給与額は、次の改定までの1年間は、変えられません

一般的には、

決算後の税務申告の期限が、「決算から2か月以内」であることに連動して、

「決算から2か月以内に役員給与の額を決めて、その翌月から、改定後の役員給与を支給する」

という会社さんが多いと思います。

しかし、この役員給与の額を決めるというのは、

実際にその場面になると、難しいな、といつも感じます。

そもそも、スモールビジネスにおいては、

役員給与の額などあってないようなもので、

その時会社にお金があれば、額面どおりもらえるけど、

お金がなければ未払状態でしのぐしかない、という、

ある種ブラック企業的な要素も含んでいます。

それゆえ、現実的には、この「役員給与の額を決める」という作業は、

「希望する生活費」+「節税のための調整額」という要素で決まってきます。

(ちなみに、かつては、役員給与にこんな制約はありませんでした。

制約がなかったため、利益調整による節税が目的の役員給与の増減が、

あちこちで行われるような状態であり、

結果的に役員給与額の変更が制限されるはめになりました)

もっとも、「希望する生活費」の金額はすぐに出せるとしても、

決算直後の新会計年度の始まりの時点で、「節税のための調整額」を決めるのは、

はっきり言って無理です。

小売業や製造業などの、計画生産タイプのビジネスならば、

ある程度の売上高の予測も立つでしょうけど、

工務店などの受注生産タイプのビジネスとなると、

その年の売上がどうなるかなんてさっぱりわかりません。

元旦に、その年の大晦日の天気予報を当てるようなものです。

最終的には、「勘に頼る」もしくは「思考停止で前年踏襲」

という結論になりがちです。

ただ、決算月を4月にすることで、

この難問をかなり簡単にすることができるようになります。

4月決算+納期の特例

「源泉所得税の納期の特例」という制度を利用します。

給与(役員給与も含む)から天引きされる源泉所得税は、

原則としては、天引きした月の翌月10日までに納付しなければなりません。

しかし、「給与受給者が常時10人未満」の事業者は、

毎月の納付ではなく、「半年に1回の納付」が認められています。

具体的には、

「1月~6月までに天引きしたもの」・・・7月10日までに、まとめて納付

「7月~12月までに天引きしたもの」・・・翌年の1月20日までに、まとめて納付

というスケジュールになります。

これらのスケジュールを、4月決算のパターンに当てはめますと、次のようになります。

「決算日」・・・4月30日

「役員給与の金額の変更決定」・・・6月30日

「変更後の役員給与を支給」・・・7月以降

「7月~12月分に天引きした源泉所得税の納付」・・・翌1月20日(ここで対外的に、7月~12月の給与が決定する)

要点をまとめますと、

「4月決算にしておけば、7月以降の役員給与を自由に変更できる」

そして、

「7月~12月までの役員給与は、翌1月20日までに確定させれば、納付に間に合う」、

すなわち

「4月決算にすることで、7月~12月までの役員給与は、翌1月20日までに確定させれば間に合う」

ということになります。

となると、4月決算の会社であれば、その年の12月頃ともなれば、

翌4月までの売上の見込みも、ある程度見えてきていると思うので、

売上規模に合わせた役員給与の額の決定が可能となります。

このようなスケジュールを組んでいくことで、

役員給与の額を決定する難しさが、だいぶ緩和されます。

最初見たときは、
「タマゴに足が生えたオブジェ」
だと思いました。
前衛的。

なお、この方法を取り入れる場合には、次の3点にご注意ください。

① 給与額の変更に伴い、社会保険の随時改定が必要になる場合があります。

② 7月以降に支給する役員給与の額は、遡って修正することを前提としておかなければならないので、銀行振込ではなく、現金支給にしておくことをお勧めします。

加えて、遡って行う修正幅を見越して、多めに銀行口座から現金を引き出しておくことをお勧めします

(修正幅の分は、未払いもしくは貸付にしておくことも可能ですが、その場合の源泉所得税の処理は、必ず顧問税理士さんとご相談なさってください)

③ 税務調査などで質問された際、「遡って修正している」ということは、言ってはいけません。ダマで押し通してください。

(現実的には、変更額適用のタイミングと、変更後の給与からの天引き額に間違いなければ、問題になることはないと思いますが)

まとめ

役員給与の額を変更するのは、業種によっては、毎回難しいと感じていたので、

それを解消するために、少しイレギュラーな方法をご紹介しました。

開業してから資金繰りが安定するまでの数年間は、

こういう方法が必要なときもあります。

もっとも、基本的には、遡っての修正、というのはあまりお勧めできません。

その年の売上がどのようになったとしても、耐えられるような財務体質にしていくことが、

根本的な解決となります。

いつまでも、イレギュラーな方法に頼ることがないように、

日頃から出費を引き締めていきましょう。