「決算日直前の売上を、翌期に計上する」というのは、節税になるのか

お疲れ様です。

静岡の税理士、浅原です。

税理士をしていると、たまに、

「この決算日前の売上高の計上を、来期に持っていけないかな」

というご相談を受けることがあります。

相談者様は、軽めの節税相談という感じでお考えですが、

税法上に照らすと「アウト」な場合が、経験上多いです。

決算日付近で発生した売上について、翌期に計上する、という処理は、

認められるパターンと、認められないパターンがあります。

下の子にせがまれて買った時計。
時間の管理は、大切にしてほしい

税法上の計上のタイミング

税法上は、個人も法人も、収益も費用も、

原則として、すべて発生主義という考えに沿って、会計処理をしていくことになります。

「発生主義」

・・・納品や、サービス提供の完了などの、経済的な事実が発生したタイミングで、計上する。(お金の動き、ではなく、モノの動きを重視する考え)

また、このうち収益については、発生主義をベースにしつつ、

さらに発生主義よりも厳密な、実現主義という考えが採用されています。

「実現主義」

・・・収益が「確実に発生した」といえるタイミングで計上する。大きく分けて、次の二つが目安になる

モノの引き渡しが必要・・・「引き渡し日や納品日」に、売上計上する

サービス提供のみ(モノは動かない)・・・「サービス提供の完了日」に、売上計上する

ここでお伝えしておきたいのは、

「請求書の発行日」が売上計上の基準になるわけではない、ということです

納品日がポイント

上記の考え方に従って、翌期ずらしの可否を見ていきます

決算日までに、納品やサービス提供が完了している場合

この場合に、その取引に関する売上を翌期にずらしてしまうと、アウトです。

仮に請求書の発送が、翌期にずれ込んでしまったとしても、

決算調整処理により、その請求額は、今期の売上に計上しなければなりません。

もし、この取引の売上が、今期の売上高から漏れていれば、

税務署から見ると「売上の計上漏れ」。

意図的に期をずらしたなら「脱税」、ということになります。

私の経験では、

単なる事務スタッフの手違いにより、売上計上が翌期にずれてしまった、という場合でも、

税務調査にて脱税扱いとなり、申告書の修正と重加算税を課されたことがあります。

毎月の締め日から月末までの納品分

決算日までに、納品やサービス提供は完了しているけど、

締め日を過ぎてしまっている取引について、どう扱うかという点です。

結論としては、締め日を過ぎていようがいまいが、

決算日までに納品やサービス提供が完了しているならば、

今期の売上に計上しなければなりません。

締め日云々は、個々の事業所によって違うものなので、

税法上は、考慮されません。

決算日までに、納品やサービス提供が完了していない場合

この場合は、翌期ずらしはセーフになります。

というより、決算日までに納品が完了していない以上、

請求書を出すのは、翌期になるはずですから、

「ずらしている」ということにはなりません。

現金主義という特例

法人も個人も、売上も経費も、

すべて発生主義、実現主義により会計処理を行っていくのが原則ですが、

ある条件を満たすと、入出金ベースでの会計処理が認められます。

その条件とは、次のものです。

  • 個人事業であること
  • 青色申告者であること
  • 小規模事業者であること・・・前々年の事業所得と不動産所得の合計額が300万円以下
  • 現金主義による所得計算による旨の届出書を、所定の期日までに提出していること

入出金ベースで行う会計処理は、「現金主義」と呼ばれていまして、

一言でいうと、「売上は入金時、費用は出金時に計上すればよい」というものです。

良いか悪いかは別にして、タイムラグを考えなくてもいいので、楽です。

楽ですけども、現金主義で決算書を作成すると、

青色申告特別控除の金額は、65万円ではなく10万円に減額されてしまいます。

65万円と10万円の違いは、税負担では結構大きいので、

税負担の大小を重視する方は、発生主義での会計処理がお勧めです。

計上時期をずらすという節税

今期は調子が良かったので、決算を締めてみると、意外と利益が出ていた、

というのは、よく聞く話です。

昨今では、新型コロナの給付金のおかげで、思いがけず利益が出た、

というのが多い印象です。

そういうとき、税負担が心配で、

決算日付近の売上は、来期に持って行っちゃおう、

と考えるお気持ちはよくわかります。

特に、法人税や所得税だけでなく、消費税まで含めて考えると、

期をずらすだけで税負担が、結構減ります。

ただ、一度それをやってしまうと、

その処理から抜けられなくなってしまうという事態を、何度か見てきました。

翌期にずらした売上は、無くなってしまうわけではなく、

翌期の税負担に、重くのしかかってきます。

「一瞬だけ、税負担という現実から逃げる」という意味で、

この「翌期ずらし」は、麻薬のようなものです。(麻薬をやったことはありませんが)

見つかれば、罰則もあります。

「逃げれば、追いかけてくる」「向き合えば、消えて無くなる」という法則(?)もあります。

多額の税負担は、誰にとっても苦しいものですが、

儲かった証でもありますので、

ここはしっかり税負担の現実と、逃げずに向き合うようにしましょう。

税金は、払う時は一瞬ですから。