退職金に「賞与」の指摘。税務対応は気が抜けない

お疲れ様です。

静岡市の税理士、浅原慎一郎です。

昨年の年末に、国税局から電話がきました。

「浅原先生の関与先の会社様で、退職金の源泉所得税について、還付請求が出されていますけど、これ、退職金じゃなくて『ショーヨ』ですよね」

「え・・・確かに還付請求を出していますけど、『ショーヨ』って、あの、サラリーマンが年末あたりに、もらってうれしい、もらえず悲しい、みたいなボーナスのこと?」

「そうです。そのショーヨです」

「・・・・・」

このことについて、感じたことを書いてみようと思います。

浜松に行ったときに、コストコに寄ってみました

退職金ではなく「賞与」という指摘

昨年、私が関与する会社様で代替わりが行われまして、

先代社長が退任して、後任として新しい社長が就任しました。

その先代社長は、

若いころから積み立ててきた生命保険を解約して、

その解約金を元手に、ご自身に退職金の支払いを行いました。

先代は、社長をされてきた期間がとても長かったので、

退職金も高額になりましたが、退職所得控除額も多く、

少し課税される部分が出るという形で、

私の方で、源泉所得税額の計算を行い、天引き後の金額を支払いました。

もっとも、その後、会社から提出された資料を見ると、

私が聞いていなかった「先代社長が従業員として勤務していた期間」があることがわかり、

その期間を計算に含めると、退職金は、すべて非課税になることがわかったので、

すでに支払ってある源泉所得税の還付請求を出した、

といういきさつになります。

その還付請求を受け取った名古屋国税局業務センターの職員さんは、

「勤続期間の修正に伴う退職所得控除額の増額」というこちらの主張を横に置いて、

「この退職金は賞与である」という指摘をしてきました。

理由は、

「退職金を支払ったときは、まだ退任前であり、社長として勤務していたから」

というものでした。

最初、私は「ショーヨ」の意味が分かりませんでした。

そんな発想は、1ミリもなかったからです。

当初は、「あんた何言ってんだよ、賞与なわけないじゃん」という感じで対応していたのですが、

職員さんのあまりにかたくな態度に

「ひょっとして・・・」という気持ちが出てきました。

万が一、退職金が賞与として扱われることになったら、先代社長は大変なことになります。

私の計算では、全額非課税で、丸々手元に残るはずだったお金が、

約半分は税金で持っていかれることになります。

老後の生活プランが、大幅に狂ってしまいます。

しかも、年末も差し迫った24日、名古屋国税局からの連絡です。

退職金であるという主張は、一歩も譲る気はないとしても、

この指摘を残したまま年末年始を過ごすのは、非常に嫌です。

先代社長にも、このことをどう報告したものか、と悩みます。

国税局からの指摘を整理しますと、

「在任中に支払っている」=「退職に起因した支払いではない」

という理解でいるようなので、

今回の退職金は、「退職に起因した支払いであること」に加えて、

「在任中に支払わなければならなかった理由」を説明できれば、通せるはずです。

そこで次のように整理しました。

  • 4月中旬に退職金を支払ったが、3月末の時点で、すでに退任手続きには入っていた

・・・同業者団体に提出した退会手続きの書類により証明

  • 4月中旬に退職金を支払ったが、退任したのは5月中旬

・・・当初は4月末に退任する予定だったが、後任の新社長との引き継ぎが予定通り進まずに、退任が長引いてしまった

  • 退任前に退職金を支払った

・・・もともと先代社長ひとりで運営してきた会社で、他にスタッフはいなかった。加えて、退職金関係で、後任の新社長の手間を煩わせたくなかったので、自らの在任中に自分自身で支払い手続きをした

結果的に、これらの説明が認められて、職員さんは指摘を取り下げましたが、

結論が出たのは年明けになりました。

先代社長には、怖い思いをさせてしまって申し訳なかったです。

やっぱり税務対応は気が抜けない

今回の国税局からの指摘は、私の本音としては、ピント外れでした。

退職する1か月前に退職金を払って、それが「在任中の支払いだから賞与だ」という指摘は、

ちょっとひどいな、と思いました。

しかし、私が冷や汗をかいたのも事実です。

国税局や税務署は、巨大で強力です。

本当に戦ったら、勝ち目はないです。

彼らは、軽くじゃれ合っているだけのつもりだと思いますが、

スモールビジネスのオーナーや税理士からすれば、

ちょっと撫でられただけでも、吹っ飛ばされるくらいの威力があります。

だからこそ、注意深く慎重に、

法律の範囲の中で歩んでいかなくてはならない、と感じました。

法律の範囲内であれば、彼らは手出しできません。

きわどいことをするならば、吹っ飛ばされる覚悟をもって取り掛かる必要があります。

でも、スモールビジネスでは、それは危険すぎます。

小銭を動かすだけならば、神経質になる必要はありませんが、

「高額、かつイレギュラーな入出金」が発生するときは、

必ず関与税理士さんに相談するようにしましょう。

エントランスの雰囲気が独特です。
シャッターが少し降りていますし。
入口にいたスタッフさんに
「イラッシャイ、タクサンカッテッテネ」
と声を掛けられたけど、
ビビリな私は入れませんでした。

まとめ

この件、もうひとつ本音をいうならば、

確かに退職金支払いのタイミングは、ちょっと早かったように思います。

当時、「浅原先生、例の退職金、昨日会社から出金しておいたから」

という先代社長からの電話を受けたときは、

「ちょっと早いな、もう少し退職日間際にしてほしかったな」と感じたことも確かです。

とはいえ「一旦お金を会社に戻して、支払いをやり直すというのも、

手間も手数料もかかるし、まあ大丈夫だろう」、と思ってやり過ごしたのですが、

ロットの大きさを考えると、私自身ももっと慎重に考えてもよかったかなと反省しています。

税務対応は、本当に気が抜けません。