アリジゴクな生命保険。節税効果よりも運転資金を重視しよう

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

先日、法人のお客様とのやりとりのなかで、生命保険契約に関するものを確認していた際に、

「そういえば、ちょっと前まで、生命保険を「節税商品」として売り込まれることが、よくあったな」

と思い出しました。

今となっては、税務署からの規制により、節税商品としての側面が弱まりましたが、

それでもときどき、法人向け生命保険の売り込みの場面では、

節税効果を前面に出してくる保険屋さんがいます。

私は、節税目的での法人向け生命保険の加入には、反対することが多いのですが、

それには理由があります。

今後、生命保険を法人税の節税に利用する、ということは自然に減っていくと思いますが、

まだ「二分の一損金保険」や「四分の1損金保険」は残っていますし、

私が反対する理由は、他の場面でも、役に立つことがあるかもしれないので、

その理由を書いてみます。

一通り仕事が終わって、帰りに、久しぶりに七間町に寄ってみました。
谷島屋書店がなくなって、100円ショップになっていました。
いつの間に・・・。

生命保険が節税になる仕組み

仕組み自体は簡単です。

仮に、20年目に返戻率のピークがくる生命保険契約に加入したとします。

その20年の間に毎月支払う保険料は、すべて経費に計上します。

そして、20年が経過して返戻率がピークの時に、保険契約を解約し、返戻金を受け取ります。

返戻金は、今まで払った保険料の総額とほぼ同じくらいの金額となるので、

払った保険料が戻ってきて、結果節税効果だけを拾えてめでたしめでたし、となります。

(受け取った保険金は、雑収入になります)

このように、保険契約の期間中に、先に経費(保険料)を計上することで、

各期の利益を減少させて、節税効果を得るものです。

もっとも、返戻金を受け取る際に、収益計上がなされるので、

正確には、節税ではなく「課税の繰り延べ」にすぎません。

なお、返戻金の受け取り年度に合わせて、役員退職金を払ったり、

設備の大規模修繕などをしたりすれば、文字通り節税効果を出すことができます。

節税目的の生命保険に反対する理由

毎期、必ず黒字決算になるという前提

保険屋さんが、保険商品の節税面について説明するときは、

「支払った保険料のうち経費にできる部分を経費計上して、その結果としてのどれだけ節税できるか」

という点をベースにお話ししてきます。

いままで、何度も社長さんたちから「浅原さんも一緒に、保険の説明をきいてほしい」と言われて、

説明の場に立ち会ってきたので、間違いありません。

もうお分かりだと思いますが、

支払った保険料について節税効果が生じるのは、「決算が黒字だった場合」です。

決算が赤字であれば、いくら経費を積み増しても、法人税はかかってきません。

繰越欠損金という、赤字を繰り越せる制度もあるので、まったくの無駄とはいいませんが、

赤字だったら、逆に経費を減らしたいところです。

ビジネスをやっていれば、いい時も悪い時もあります。

生命保険の、「この先ずーっと黒字」を前提に作られている節税効果の数字は、

どれだけ実現可能なのか、疑問です。

保険期間中、お金は出ていく一方

「運転資金のことは気にしない、節税さえできればオッケー」という社長さんはいますでしょうか。

生命保険に加入した時点で、毎月保険料が出ていくことは、確定です。

それに対し、節税効果は(正しくは課税の繰り延べ)、

その年の決算が黒字であれば効果があるけど、赤字であれば効果なし。

要するに、節税効果の有無は、決算が確定するまでわからない、ということです。

どうにも「分が悪い」、と感じませんか。

ひとつ言えるのは、たとえ節税効果があったとしても、

毎月支払う保険料の方がはるかに多い、ということです。

運転資金を痛めてまで、節税目的の生命保険に加入する必要があるか、

慎重に考える必要があります。

途中で止められない

節税用の保険商品は、その性質上、返戻率のピーク時以外で解約すると、

返戻率が極めて低くなるように設定されています。

ピーク時の1~2年手前くらいなら、まだいいのですが、

5年手前、10年手前となると、ものによっては5割を下回る返戻率になることがあります。

そんなときに解約したら、はっきり言って大損です。

その結果、運転資金が苦しくても、無理して保険料を払い続けることになります。

運転資金が足りなくて、銀行からお金を借りて、保険を続けている社長さんもいます。

そうなるともう、まさにアリジゴク。

一体、何のために保険に加入したのかわからなくなります。

続けるか解約するかは社長次第ですが、「出費の継続」か「損失確定」の二択しかありません。

(私はそういうときは、損失覚悟で解約をお勧めしています。続けても損失が拡大する可能性が高いですし、「執着」という精神状態は、よくありません)

花で作られたクマの人形。
クリスマスまで、あっという間です。

保険は本来の目的に使うのがいい

保険加入を考えている社長には、

「節税効果は期待せずに、本来の保障という点で、合っているものを選んでほしい」と伝えています。

特に社長の場合は、定年はないものの、いつか引退の時はきますし、

引退後の生活保障という点で、個人年金保険に加入することをお勧めしています。

ケガや病気の保障も必要なので、そういうリスクもカバーされたものがあると安心です。

斜に構えた見方になりますが、法人向けの生命保険で、節税効果が全面に出されるようになったのは、

「普通に保険を売っても全然売れないから」ではないか、と思っています。

仮にそうだとすると、「節税効果が間違いなくある」ならばまだしも、

上記のとおり、「節税効果は、あったりなかったり」で、

おまけに「保険契約中は、出ていくお金の方が多い」となると、

事前にそれらについての丁寧な説明がないようだったら、

あとになって騙されたと感じてもしかたがないな、と思います。

生命保険は、毎月の支払額は、たいした金額ではないかもしれませんが、

それが10年、20年続くとなると、想像以上に大きな金額に膨れがちです。

加入する際は、余計なことは考えず、

「必要な保障」「それに対する保険料の多寡」に集中していただきたいと思います。

まとめ

節税目的の生命保険について、まとめてみました。

いわゆる全損商品の販売ができなくなってから、

新たな節税商品として「オペレーティングリース」というものが出てきているようです。

飛行機のオペレーティングリースは、私が税理士になる前からありましたが、

概要しかしりませんけど、これもどうなのかなと思います。

少なくとも、中小企業さんが手を出すようなものではないように思います。

確かに税金は、決算の度に頭を痛めますが、

あまり節税という言葉に振り回されないように気を付けましょう。