複数法人で物件を保有するメリット・デメリット

こんにちは。

税理士の浅原です。

私は、賃貸業をやっていくうえで、物件を2つの法人に分けて保有しています。

ひとつの法人にまとめずに、分けて保有することのメリット・デメリットのついて書いてみます。

今日は、商工会議所の税務相談の当番でした。

メリット

銀行借入の際、柔軟に対応できる

賃貸マンションを購入するとき、だいたい決まって、購入年度は赤字決算になります。

なぜかといいいますと、

  • 購入のタイミングが年度中途になることが多く、年間通して家賃収入を計上できないので、そもそも売上計上額が少ない
  • 購入時に、登記名義を変更するために支払う登録免許税が重い
  • 購入から4~5か月後に支払う不動産取得税が重い

という理由です。

2年連続で物件を購入すると、場合によっては、タイミングや物件の規模によっては、3年間は赤字決算が続くことになります。

そうなると、その法人では銀行借り入れ難しくなってきます。

物件購入後の運営がうまくいっていれば、おのずと黒字決算になるはずですから、黒字転換ののち、銀行から借りれる状況を整えて、また買っていけばそれで支障はありません。

この場合の問題は、その銀行から借りられない間に、儲かる物件が売りに出たとしても、ただ指をくわえて見ていることしかできない、ということです。

いい物件は、間違いなく、一度売りに出るとすぐに買い手がつきます。

加えて、いい物件はタマ数が極端に少ないので、ここぞというときに、融資を受けるための「入れ物」を複数持っておき、どちらかの入れ物は、すぐに銀行融資が受けられる状態にしておく、ということは、物件を増やしていこうという人には、とても重要なことだと思います。

「利益の分散」による節税

日本の法人税は、税率が2段階に分けられています。

  • 年間の利益が800万円まで・・・低い税率(15%)
  • 年間の利益が800万円を超える・・・高い税率(23.4%)

その差が「8.4%」。

これは、資本金1億円以下の中小法人の場合です。

また、法人税以外に、事業税や市県民税もありますが、計算が複雑になるのでここでは割愛します。(また別の機会に書きます)

もっとも、それらの税金のうちに、法人を所有すること自体にかかる「市県民税の均等割り(会社の規模によって変わりますが、だいたい年間で7万円。静岡の場合は71,000円)」というのがあるのですが、これは何社の法人を所有するかに直結してくる税金なので、計算に含めて考えてみます。

では、例えば、すべての物件から集まってくる利益が1,000万円あるとしたときに、ひとつの法人のみですべての物件を保有しているならば法人税はどうなるかについて、計算してみます。

【利益1,000万円 1社集中パターン】

① 8,000,000円×15%=1,200,000円

② 2,000,000円×23.4%=468,000円

③ 71,000円×1社=71,000円

④ ①+②+③=1,739,000円

次に、2つの法人に分散して保有して、利益はそれぞれの法人で500万円ずつ計上する場合の計算を見てみます。

【利益1,000万円 2社分散パターン】

① 5,000,000円×15%=750,000円

② 5,000,000円×15%=750,000円

③ 71,000×2社=142,000円

④ ①+②+③=1,642,000円

その差は、10万円弱。

年間利益が1,000万円くらいだと、あまり差が感じられません。

むしろ、決算申告作業を税理士に発注するなら、法人2社なら決算料も2倍でしょうから、2社の方が高くつくかもしれません。

では、年間利益が2,000万円の場合で見てみます。

2社の場合の利益配分は、それぞれ1,000万円ずつということでやってみます。

【利益2,000万円 1社集中パターン】

① 8,000,000円×15%=1,200,000円

② 12,000,000円×23.4%=2,808,000円

③ 71,000円×1社=71,000円

④ ①+②+③=4,079,000円

【利益2,000万円 2社集中パターン】

① 8,000,000円×15%=1,200,000円(1社目)

② 2,000,000円×23.4%=468,000円(1社目)

③ 8,000,000円×15%=1,200,000円(2社目)

④ 2,000,000円×23.4%=468,000円(2社目)

⑤ 71,000×2社=142,000円

⑥ ①+②+③+④+⑤=3,478,000円

税額の差が、約60万円となりました。

この差を多いと見るか、デメリットの割には少ないとみるか、事業の方向性や事務処理にかけられる手間や時間との比較で判断していただければいいと思います。

ひとつ付け加えますと、この節税の核心は、「年間800万円以下の低税率枠の有効活用」という点にあるので、低税率の枠を使い切ったあとは、それ以上の節税効果は生まれません。

そのうえで、この手法でのさらなる節税効果を求めるならば、単純に、法人の数を増やしていくことになります。

「黒字法人の方に経費を負担させる」という節税

例えば、外壁塗装費用や、内装修理費用など、完全にその物件とヒモ付き関係にある経費は、その物件を保有している法人の経費にするしかありません。

もっとも、分担の線引きが明確ではない経費などは、黒字の法人に負担してもらうことで、黒字法人側の税金を抑えることができます。

線引きが明確でない経費については、次のものが考えられます。

  • 修理部材に関する経費(電動工具、修理に使う部材や塗料)
  • 清掃作業に関する経費(掃除道具、作業着代、廃棄物処分、まとめて行うエアコンクリーニングや配管洗浄、植栽管理)
  • 車両管理に関する経費(ガソリン代、車検・修理代、自動車保険、駐車場代)
  • 役員報酬、給与

ちなみに、上記の経費は、私のように、定期的な修理や清掃などは自分で行うスタイルを想定しているので、全部管理会社にお任せスタイルの方だと、役員報酬や給与だけになりそうです。

また青色申告法人で欠損金の繰り越しができる場合には、長期的に見れば、どちらの法人で経費にしてもトータルでの税負担は同じになるはずです。

そうはいうものの、不動産賃貸業は、時間の経過をお金に換える商売なので、節税によって税金支払いを先送りすることができるならば、先送りした方が運転資金には余裕ができます。

やり手の経営者感を醸し出せる

賃貸業をやり始めた当初は、複数の法人を管理していることで、やり手っぽい感じが出せて内心ホクホクしていました。

いまは、そんなことどうてもよくなりましたが。

銀行や売買仲介会社さんに、それっぽく見せたいときに、「複数法人の代表やってます」というのは、第一印象を作りこむためには、多少効果があったように思います。

不動産を扱う者は、ときにはハッタリも必要ですから。

デメリット

事務処理がめんどくさい

帳簿も申告書も2社分作成する必要があります。

「ひとつの工事や物品の仕入れについて、ひとつの請求書や領収書を受け取る」ということであれば、事務処理でそれほど頭を悩ませることはないと思います。

これが、「ひとつの請求書に、複数の物件の工事が記載されている」となると、処理に手間取る可能性があります。(書類と支払実績の突合せがめんどい、というだけですが、これが積み重なるとうっとうしく感じます)

会計帳簿を作成する際に、自分で作るにせよ税理士に頼むにせよ、経理資料を会社ごと、もしくは物件ごとに分けておかないと、わけが分からなくなります。

この場合、業者さんには「物件ごとに請求書を分けて送ってほしい」とお願いすることで、ある程度わかりやすくなります。

また、「ひとつのクレジットカードで、複数の物件で使う消耗品や設備の購入をしている」という場合も、帳簿作成の段階でめんどいことになります。

これを解消するためには、クレジットカードは「カード数枚を用意して、物件ごとにもしくは会社ごとにどのカードを使うか決めておく」がいいと思います。

いずれにせよ、めんどくさいと感じた時に少し工夫すれば、それで問題ないです。

税理士費用が倍かかる

会計帳簿作成、決算申告書作成を税理士に外注している場合には、当然ながら、2社に分けておいた方が、作業が2倍に膨らむ分、余計に税理士費用が発生します。

これを解消したいなら、経理作業は全部自分でできるようにすること。(慣れれば、そんなに考えなくても作れます)

会計帳簿だけでも自分でできるようにして、決算申告業務のみ税理士に依頼する、というようにすれば、税理士費用を抑えることは可能です。

まとめ

複数の法人を管理していくメリットデメリットは、その人が置かれている状況によって、とらえ方が変わってきます。

税額を抑えることで、手残り金額を増やすことにメリットを感じるか、出費が多少高くついても、手間と時間を短縮することにメリットを感じるか。

私の考えを書いてみます

ビジネスにおける財務面での目標は、キャッシュフローの最大化です。

そして、賃貸業の性質上、売上金額は所有する物件によって上限が決まってしまいます。

20部屋の物件を持っている人は、新たに物件を仕入れない限り、どれだけ頑張っても20部屋がすべて埋まった時点で、そこが限界です。

とすると、キャッシュフローを最大化するには、支出を抑えていくしかない。

ですので、その人は、まずは20部屋をきっちり埋めること。そして埋まったら、今度はできる限り支出を抑える努力をしていくこと。

しかし、支出を抑えるといっても、どうしたって自分ではできないことがあります。

空室募集やご案内、水漏れ修理、大工工事など。

さすがにそういったことを自前で処理することは、普通のオーナーさんには無理でしょう。

しかし、会計帳簿や決算申告書の作成、消火器の点検報告など、書類作成だけだったら、多少の勉強時間を確保すれば、自分で作成できるようになります。

それが、賃貸業におけるキャッシュフローを最大化する道になります。

キャッシュフローの最大化が完成したのち(もしくは途中でも)、お金よりも時間に価値を感じるようになったら、少しずつ外注に出せる仕事を外注して、手間を減らし時間を増やしていく、というのがいいと思います。

支出を抑えるために身に着けた技術(帳簿作成、申告書作成、点検、修理、ネットワークなど)は、自分の中に蓄積され、将来きっと役に立ちます。

以上、ご参考になさってください。