お金を貸さないと決めました

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

3年ほど前に、私は、他者にお金を貸さないことに決めました。

その時のことを書いてみようと思います。

深海魚バーガー、いただきました。
えげつない風味を覚悟していましたが、普通においしかったです。

仲の良い業者さんが、お金に困っていた

私は、平成27年から平成30年にかけて、年に数回、頼まれてお金を貸したことがあります。

お金を貸したのは、いずれも同一人物で、当時賃貸業でお世話になっていた業者さん(B社さん)です。

そのB社さんとは、その当時で5年くらいのお付き合いがあり、年も私と同い年で、同じ小規模事業者ということもあり、とても仲良くお付き合いさせてもらっていました。

私が抱えている物件数も多かったため、時期によっては、打ち合わせや現地調査で、毎日顔を合わせていました。

施主側の意図をくみ取って動いてくれる方でしたので、こちらも重宝していましたし、B社さんにとっても私のように融通が利いて、まとまった工事を発注してくれる施主は、貴重な取引先だったのだろうと思います。

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職人として信頼していた彼でしたが、お金の管理は苦手だったようです。

「予定していた管理会社からの入金がなかった」「いつも工事代金の支払いを渋ってくるオーナーさんの工事を割り振られてしまった」「このままだと、消費税を払えない」「月末の資金繰りがやばい」と、よく私に、愚痴をこぼしていました。

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B社さんのメインの取引先は、地元でそこそこの管理物件を抱えている不動産管理会社でした。

不動産管理会社が管理している物件で工事をする場合には、通常「物件のオーナー」→「不動産管理会社」→「メンテナンス会社(B社)」→「個人の下請け職人」という系統で、情報伝達や代金の支払いがなされていきます。

また、現地下見、見積もり内容の決定、発注、代金の支払いといった工事にまつわる一連の流れは、不動産管理会社が定めるルールに従って進んでいくことが多いです。

特に、工事代金の支払いサイトは、一般的には、「工事完了後、月末締めの翌月末払い」ですが、不動産管理会社によっては、「月末締めの翌々月末払い」のところもあります。(私は知りませんが、もっと遅いサイトのところもあるのではないかと思います)

仮に、「翌々月末払い」だとすると、4月5日に工事が完了した場合には、「4月30日で締めて、支払いは6月30日」となります。

さらに、ちゃんと6月30日に支払ってくれればまだいい方で、物件のオーナーさんが、クレームやらなにやらで不動産管理会社への支払いを渋ってきたら、いつまでたっても、メンテナンス業者さんには工事代金が振り込まれません。

だからといって、末端の下請け職人さんは、そこまで入金を待てないので、メンテナンス会社さんからすると、「支払いは先、入金は後」というサイクルが続くことになります。

そんなわけで、不動産管理会社さんを取引先にする場合、ある程度の仕事量の確保はできるものの、資金繰りに関するイレギュラーは、メンテナンス会社さん(B社)が負担することになる場合が多いです。

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もっとも、工事代金の焦げ付きが、一定数発生してしまうことを避けられない、ということがあらかじめわかっているならば、対応は十分可能です。

金融機関から、運転資金として焦げ付きを見込んだ金額を借りておけば、資金ショートは避けられます。

この場合、毎月返済をしていくタイプの借入ではなく、「当座借越」が適しています。

一定額の借入枠を設定してもらい、その範囲内で、いくら借りるのもいつ返済するのも、借りる側が決められるものが「当座借越」です。

「予定していた工事代金が入金されなかった。でも、下請け業者さんへの代金は、支払わなければならない」となったときは、この当座借越枠の中から、下請け業者さんへの支払い金額を借りてきて、実際に下請けさんに支払います。

そして、管理会社と、どうすれば工事代金を支払ってもらえるの相談しながら、早めに回収できる道を探っていきます。

実際に回収できた時点で、借りた当座借越金額を返済します。

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B社さんから、資金繰りが苦しい、という話を聞くたびに、上記のような借り入れの話をして、自分自身でお金の流れをコントロールする重要性を伝えました。

私は、B社さんの顧問税理士ではありませんでしたが、言ってくれれば銀行に同行して、資金調達も一緒に手伝うよ、と何度も伝えました。

しかし、B社さんが金融機関に相談に行くことは一度もありませんでした。

そして、彼の窮状を気の毒に思った私が、しかたなくお金を貸して足りない運転資金を補填する、ということを繰り返していました。

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何年たっても、自分の努力で資金繰りを成り立たせようとしないB社さんに、なんとなく不穏な気配を感じて、引き続き頼まれる運転資金の補填は断りつつ、工事の発注量も減らして、距離をおき始めていたときのことです。

B社さんと共通の知り合いである電気工事屋さんから、「B社さんからの依頼で行った電気工事の代金が、焦げ付いている」と聞いて、ついに彼の資金が尽きたか、と思いました。

不動産管理会社と取引先とする職人さんたちは、それぞれの不動産管理会社ごとに、ネットワークを形成しています。

そのため、噂が出回るスピードも速いです。

B社さんの工事代金未払いの噂は、そのネットワークの中で、数日のうちに各職人さんたちに知れ渡ったはずです。

B社さんは、極めて苦しい立場になってしまったと推測されます。

それとは別に、もともと私のネットワークにあった配管屋さんに、かつて、B社さんを紹介したことがあったので、念のためその配管屋さんにも連絡をとったら、その人も「B社さんから依頼された工事の代金が、いつまでたっても支払われなくて困っている」ということでした。

「まいったな・・・」と、当事者でもないのに、私が途方に暮れてしまったことを覚えています。

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結局、電気工事屋さんも配管屋さんも、時間をかけて、ときには強引に、B社さんから工事代金を回収していきました。

お金を貸すことは、その人の問題の解決につながらない

「お金は、手段であって目的ではない」というフレーズは、どこかで聞いたことがありますが、「お金を貸す(借りる)」というのは、まさしく「問題解決までの時間を確保する『手段』」であって、目的ではありません。

銀行借入然り、私がB社さんに貸したお金然りです。

B社さんには、「事業構造に基づく理由で、定期的にお金が足りない状態が発生する」という問題を抱えており、他者(浅原)からお金を借りてくることで、その「状態」をしのいでいました。

いま振り返ると、B社さんは、「お金が足りない状態」のことを「問題」と捉えていたふしがあります。

「お金が足りない」というのは、あくまでその瞬間の「状態」のことであって、その困った状態を招いてしまう根本原因は、事業構造にあります。

つまり、工事の発注者側に立つ不動産管理会社が、圧倒的に強い立場にあるため、「本当なら断りたい工事も、受けざるを得ない」という構造に、問題があります。

しかし、私も小規模事業者ですから、他者も含めた大きな構造そのものを変えていくことは、簡単にはいかないことはわかっていますし、そもそも立場的に手を付けられるようなものではないことも知っています。

であるなら、「構造的に、お金が足りない瞬間が生じてしまうのは避けられないけど、そんなときでも資金繰りは困らない」という状況に持っていくしかありません。

それが、冒頭でお話した「当座借越」です。

事業構造自体を変えていくことが「問題解決」であり、問題解決ができない場合に、「問題が生じても困らないようにする手段」として「借入」があります。

「借入」が、「問題」を解決してくれることは、ありません。

多くの場合「借入」は、「問題を解決するまでの時間」を提供してくれるだけです。

まとめ

B社さんのこの一件があってから、私は、他者にお金は貸さないことに決めました。

貸す方の精神的な負担も当然ありますが、前述のとおり、お金を貸すことが問題の解決にはならない、と実感したからです。

むしろ、私の経験では、お金を貸すことは、抱えている問題から目を背けさせ、さらなる悪影響を生じさせてしまうことにつながります。

「ああ、だから銀行の審査って、厳しいし、時間もかかるんだ・・・」と反省したことを覚えています。

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困っている人がいるなら、その困っている状況ではなく、「困っている状況を生み出す原因の解決」に、力を使いたいと思っています。

何かのご参考になれば、幸いです。

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あと、この話とは関係ありませんが、銀行の借金が返せないからといって、命を絶つ必要は、まったくありません。

破産手続きをすればいいだけです。

何事も、「生きてこそ」です。