「安全安心」の使い方

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

ここ数年、テレビを見ていて、ずっと気になる言葉がありました。

「安全安心な・・・」というフレーズです。

使い方がどうにも気にかかる、と思っていたのですが、先日、もうこの言葉は、本来の意味を失ってしまったな、と感じる場面がありました。

子どもたちが、ゲームに夢中でお風呂に入らないので、私が「いい加減にせい!フロ入れええ!!」と怒鳴ったら、下の子(小二)に、「さっきからうるせえんだよ!!」と怒鳴り返されました。
我が家のパワーバランスが混乱しています。

先日、テレビのニュースで、菅総理大臣が「安全安心なオリンピックが実現できるように・・・」とコメントしていました。

私は、感染対策の専門家ではないですし、オリンピック関係者でもないので、開催の可否については触れません。

しかし、新型コロナの感染が収まりを見せない状況の中で、オリンピックを開催するということが、「安全」に開催するのも難しいでしょうし、とても「安心」などできるものではない、ということはわかります。

近年、このフレーズが頻繁に使われるようになったことで、文章やコメントに「安全安心な・・・」が入ると、「何か説明できないような危険な要素があるのだろうな」と、裏のニュアンスを抱かせるようになってしまいました。

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そもそも、「安心」という言葉は、客体に対して、主体がどう感じるか、という「主観的」な言葉のはずです。

安心できるかどうかは、あくまで対象に向き合う本人にゆだねられています。

正確な言葉の意味を知りたいわけではないので、広辞苑は開きませんが、「安心」という言葉は、そういう風に使われていたと思います。

また、「安全」という言葉は、その対象が、まわりの環境や生物の存続にとって危険かどうかという「客観的」な事実を表す言葉のはずです。

この主観的な「安心」と、客観的な「安全」を、なぜか併記して、さらには、非常に軽々しく使われるので、「安全安心な・・・」は、現状、極めて胡散臭い言葉になってしまいました。

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思い返すと、この言葉は、2011年の東日本大震災のころから使われるようになった気がします。

福島県の原発が津波被害を受けて、放射能汚染の問題がクローズアップされるようになってから、このフレーズをよく目にするようになったと思います。

当時、福島県産の農産物や海産物が放射能に汚染されている、という報道が盛んにおこなわれていました。

「それは事実ではなく、うちの畑でとれた野菜は、放射能測定器で計っても基準値以下に収まっている」という農家さんのコメントも、多く目にしました。

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その時の、「安全安心な・・・」は、理解できます。

農家さんたちが、野菜の安全性を担保するために必死に努力していたのを、テレビ報道でよく見かけました。

「安全」な野菜(客観)である。だから「安心」して(主観)食べてほしい。

「安全」なので「安心」してほしい、が、繰り返し使われる中で、「安全安心」に縮まっていったのだと思います。

静岡では、当時、スーパーなどで福島県産の野菜を見ることは、あまりなかったと記憶していますが、「福島原発付近の畑は怖いけど、同じ福島県でも、原発から離れた畑なら放射能汚染は問題ないのだろう」と、個人的には思っていました。

最終的に我が家では、産地は関係なく、すべての野菜の放射能測定をしてくれているパルシステムで野菜を買うようにしよう、ということになりましたが。

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つまり、思考順序からいうなら、まず、客観的に安全かどうかの確認。

そして、安全性に関する情報や説明に触れた後に、安心できるかどうかの判断、という流れで、人間は行動するはずです。

要するに、「安全」と「安心」はまったくの別物であって、同時には起こりうるものではなく、必ず安全かどうかの論点が「先に来る」、ということです。

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当時は、震災直後ということもあり、言葉の選び方や、安心・安全という言葉への真摯さが、まだ、人々に残っていたと思います。

しかし、ここ数年は、完全に枕詞になってしまって、安心と安全が併記された場合には、無意味な言葉に成り下がってしまいました。

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安全と安心を併記して、さも、「だいじょうぶ、だいじょうぶ。心配ないから、あまり深く考えないで」というニュアンスを醸し出すこの使い方は、常々、会計処理の安全性について考え続けている私にとっては、ありえない使い方です。

何度考えても、「安心」と「安全」は別ものです。

単純損金以外で、安全な会計処理などないですし、経営者には、どれだけ経営が順調にいっていたとしても、代表取締役でいる限り、安心できるときなどありません。

まあでも、そういってしまっては身も蓋もないので、私は税理士として、できるだけ安全な会計処理を心掛けながら、要所要所でグレーゾーンにも切り込みますし、財務分野の不安感を、数値の分析によって私が肩代わりして、経営者さんには少しでも安心してもらおうと思っています。

参考にもなんにもなりませんが、こんなことを考えていた、という話です。

今日もお疲れ様でした。