税理士ひとりの事務所と複数スタッフの事務所、どちらに頼むべきか

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

私は現在、ひとりで税理士事務所を運営しており、今後もひとりでやっていく予定です。

誰に指示されたわけでもなく、ひとりで運営していくことを選んで、あえて一人でやっています、と一応は説明しています。

でも、今までの経緯を振り返ってみると、ひとりが好きだから一人でやっているわけではなくて、「いろいろあって追い込まれた結果、ひとりでやらざるを得なかった」というのが、実情です。

さて、お客様からしたら、私みたいなひとりでやっている税理士と、複数人のスタッフとともにやっている一般的な税理士事務所と、どちらを選ぶべきでしょうか。

私は最終的には、「お客様が、税理士に何を求めているか」によるのだと思います。

水族館に飾られていたブロックで作ったシーラカンス。
どこかの高校性が作ったらしいけど、大作ですな。

複数スタッフの事務所の方がいい場合

例えば、お客様が次のようなことをご希望であれば、複数人のスタッフがいる税理士事務所が適していると思われます。

  • 連絡手段は、電話しかない
  • 自分が電話したときには、誰でもいいから電話に出てほしい
  • 思いついたことがあるときは、すぐに伝えたい
  • 依頼したことは、すぐに実行してほしい
  • パソコンは使えない(使い方を覚える気もない)
  • 立派な外観を備えた税理士事務所とお付き合いしたい
  • 税理士が複数いる事務所の方が、安心できる
  • 事業規模が大きい、取引内容や株主構成が複雑、海外取引が活発など、事業が特殊である
  • 決算書や申告書は頼みたいけど、税理士本人には会いたくない
  • 税理士は、こちらが求めるときにだけ、出てきてくれればいい

こういったことは、ひとりでやっている税理士では、対応できない場合が多いです。

特に、即時性を求められると、ひとりの場合には物理的に無理なことが多いので、お互いにとってつらいことになりそうです

ひとりでやっている税理士の方がいい場合

ひとりでやっている事務所の場合は、「ひとりしかいない」という点からくる物理的な制約を、受け入れていただかなくてはなりません。

それは例えば、いつ電話してもつながらない、アポなしで訪問するとたいてい留守、事務処理が完了するまでに時間がかかるときがある、というようなことです。

同じ理由で、次のようなことを希望されるお客様は、ひとりの事務所に向いていると言えます。

  • 同じ担当者に、ずっと担当してもらいたい
  • パートさんではなく、資格をもった税理士に担当してもらいたい

日頃から、税理士本人と直接やりとりしていれば、税理士側にもお客様の情報が蓄積されていきますので、税理士とフィーリングやその他の諸条件が合えば、経営参謀として大きな効果を発揮してくれると思います。

どっちでもいい場合

次のような場合には、複数スタッフの事務所でも、ひとり事務所でも、どちらでも問題ないと思います。

  • 何はさておき、安くやってくれるところがいい
  • 近くにある事務所で、行くのも来てもらうのも、簡単な方がいい
  • その税理士本人の得意分野や経験値が必要だ
  • 逆に、税理士なんて誰でもいい

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お客様の方で、会計帳簿までは作れるし、節税も本を読んで勉強するし、税理士は最低限のことだけやってくれればいいよ、という方であれば、税理士事務所の選択肢はかなり広がると思います。

そういう方なら、あとは会社の近くの税理士に何人か会ってみて、フィーリングが合って、報酬の安いところを見つけてくるだけです。

個人的には、このパターンが理想的です。

複数のスタッフがいる事務所では、何が起きているのか

複数人のスタッフのいる税理士事務所では、お客様の対応は、次のような状態になることが多いと思われます。

  • 内部事情として、雇っているスタッフの数だけ、固定費(人件費)がかさむ。
  • そのため、お客様のご希望や事業内容、経営方針などはさておき、固定費をまかなって、さらに税理士本人の生活費を稼げるくらいのお客様の件数を、絶対に確保しなければならない。
  • そのため、税理士が望まないようなお客様(事務処理の手間に比べてもらえる報酬の少ないお客様、脱法思考をくすぶらせているお客様、クセの強いお客様)なども、依頼があれば抱え込むことになる。
  • そうなると、事務所の経営者である税理士の頭の中は、「お客様への税務サービスの提供」のほかに、「新規顧客を獲得しなくては」「スタッフの仕事の進捗状況や内容のチェックをしなければ」「遊んでいるスタッフがいないように、ちゃんと仕事の割り振りをしなければ」「〇〇さんが年内で退職するから、スタッフの補充を急がなければ」などの、いまの事務所を維持していくこと、にスペースを奪われることになる。(推測も含む)
  • 常時、頭も体も忙しいので、顧問料金の多いお客様の対応を優先し、手間のかかるお客様の対応は、スタッフに任せがちになる。税理士本人もてこずるようなお客様なので、当然ながら、スタッフには強いストレスになる。
  • 事務所内部で、仕事の押し付け合いが始まる。
  • スタッフの入れ替わりが激しくなる。
  • 毎年のように担当スタッフが変わるので、お客様に関する情報の蓄積がなされない。
  • 税理士としても、何年も顔を出していないお客様のところには顔を出しづらいので、スタッフに任せっきりになる。
  • 完全に放置状態のお客様が生じてしまう。

以前、私が勤めていた会計事務所では、そのような状況が生まれていました。

ボス税理士の頭の中までは、正確にはわかりませんが、自分が少しだけボス税理士をやっていたときのことを思い返すと、前述のようなことを考えていたのではないかと思います。

実際、私がボス税理士をしていたときも、スタッフの入れ替わりの速さに、自分で驚いていました。(私自身がかなり忙しい状態だったので、恥ずかしながら、仕事の押し付け合いもありました)

でも、外から見ていると、そんな風には見えないかもしれません。

税理士は、その仕事内容からして、表面をうまく取り繕うことが得意なのでしょう。

ただ、上記のような状態は、よく聞く話です。

私が「ひとり」になった理由

平成27年に、ひとりで税理士をやっていくことを決めて以来、私はずっとひとりスタイルでやってきています。

ひとりになってから、ようやく落ち着いて仕事ができるようになりました。

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私は、若いころから、組織というものが合いませんでした。

組織で働いていると、どれだけ現場の最前線にたって頑張っていても、現場にも来ないような上司の考えで、業務の方向性を変えられてしまうことが、よくあります。(私の勤め先ではよくありました)

また、単純に、上司が足を引っ張ってくることがあります。

私は、仕事の邪魔をされることに非常にストレスを感じるタイプで、自分の仕事にちょくちょく上司が首を突っ込んでくるというのが、たまらなく嫌でした。(上司としては、部下の仕事の進捗状況を把握しておく必要があるので、致し方ない面はありますが、それでもせめて、部下の意欲を下げるような接し方はやめてほしかったと思います)

とにかく、私は「上席者」という存在と、うまくやっていくことができませんでした。

その結果、税理士になるまでに、何度も転職を繰り返すことになります。

また、私にとっては、部下も、気がかりな存在でした。

かつて、ベンチャー企業で6人の部下を抱えていた時や、税理士事務所で4人の従業員を抱えていた時など、

「〇〇さんは、私の指示をちゃんと理解してくれただろうか」

「〇〇さんと〇〇さんはうまく連携をとってくれているだろうか」

「〇〇さんの有休消化が、いまのペースだと間に合わないけど、休ませるほど業務にゆとりもない」

「新規の案件を〇〇さんに頼みたいけど、また嫌な顔されるだろうな」

といった心配事が常にあり、自分自身に任せられた重要案件に、なかなか集中できない状況でした。

特に、税理士事務所で4人の従業員を抱えていた時は、私が稼いできたお金で従業員を雇っているわけですから、自然と従業員への見方もシビアになってきます。

従業員が、お客様と電話で1時間近く世間話をしているときなど、その従業員に支払う時給2,000円の給与と、回線電話から携帯電話への高い通話料が、私の頭の中で、激しいファイヤーダンスを繰り広げているような状況でした。

さりとて、今ここで、このスタッフに注意しても、「コミュニケーションを円滑に行うためには、雑談も必要だ」などと反論をしてきて、手を焼かせることも目に見えています。

「さっさと電話を切り上げて仕事しろよ」という口に出せない叫びが、頭の中で反響してきて、とてもこれでは仕事に集中できない、と判断して、部屋を出ていった記憶が残っています。

私は、経営者としては、人を増やして事業を拡大していくような器ではないな、と、その時思いました。

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こういった過去の経験から、「上司や部下という人間関係」への苦手意識があって、上下関係によるストレスがない環境を自分の手で作っていかないと、とても税理士を続けられない、と考えて、現在のひとりで事務所を運営するスタイルに落ち着きました。

ふりかえってみれば、私は、組織の煩わしさから逃げて、スタッフの突き上げから逃げて、それでも自分の人生は自分で舵を取りたいと思って、このひとりスタイルに流れ着いたのだと思います。

ひとりになってからの5年間は、無理して人間関係を抱え込まなくて、本当に良かったと思います。

まとめ

私自身が、現在お付き合いしている事業者さんは、会計事務所のお客様を除いては、弁護士さん、司法書士さん、社労士さん、塗装業者さん、内装屋さん、電気工事屋さん、不動産管理会社さん、配管洗浄屋さん、消防機器点検会社さん、エレベーター保守点検会社さん、金融機関さん、といったところです。

このうち4名の方が、ひとりで事業をされています。

仕事を依頼するにあたって、私の場合、まずはお相手の方が信用できる方かどうか、という点から入ります。

いくら金額が安くても、言うことが信用できないのでは、お付き合いは続けられません。

「信用」を第一の判断基準にされる方は、私以外にも多いと思うので、そういう意味では、私自身も初見から信用してもらるよう、気を付けて生きていこうと思います。

何かの参考になれば。