お疲れ様です。
税理士の浅原です。
当方のお客様に、よく約束事を忘れてしまう方がいらっしゃいます。
一時期、そのお客様の対応に苦労したことがあり、いただいている報酬額と、こちらの負担とのバランスが取れていないと感じて、今後もお付き合いするべきか悩んだことがあります。
現在、そのお客様の物忘れの程度は、かつてよりも重くなっているように感じますが、今後のお付き合いについては、ご依頼のある限り継続していくということで、迷いはなくなりました。

「写真撮るからこっち見てー」と言っても、スマホに夢中で見てくれないうちの娘。
目次
よく忘れてしまうお客様
そのお客様とのお付き合いは、今年で8年目になりました。
毎年、青色申告での所得税申告をしています。
過去には、お身内の方の相続税申告のご依頼もありました。
概ね、半年に1回の頻度で、面談させてもらっていますが、物忘れの影響もあったりなかったりで、年に4~5回は顔を合わせています。
ご自分で畑をお持ちなので、畑でとれた野菜やみかんをよくいただきます。
娘さんが、すぐ近くに住んでらっしゃいますが、身の回りのことも、ご主人のことも、飼っている柴犬も、全部自分で世話してらっしゃいます。
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そのお客様は、事務的なことはしょっちゅう忘れます。
私とのやりとりは、ほぼすべて事務的なことなので、お電話で約束したり、面談時にお伝えしたりしたことは、「あの件は、もう覚えてはいないだろうな」という前提で、いつも対応しています。
実際、訪問する前には、前々日に1回、前日に1回、当日の朝に1回と何度も電話して確認しますが、当日の夕方に訪問すると、「〇〇さん、外出中!あれだけ言ったのに! (*´Д`) はぁ~」ということが、かなり多いです。
国民年金の源泉徴収票のハガキも、関係ないと思って捨られてしまうので、「このハガキがないと税金計算で不利になっちゃうから、もう一度社会保険事務所でもらってきてね」とお伝えして、その時は「わかったよ、大丈夫だよ」といい返事をいただけます。
しかし、3日後くらいに確認の電話をすると、「ああ!!忘れてたよ!いまから行ってくるよ」という感じです。
一番しんどいのは、訪問して、今日はちゃんと待っていてくれたな、と思ったら、「いまから出かけるところだよ」と言われることです。
お客様は私が来ることは頭にないので、私が玄関先に突っ立っているにも関わらず、元気いっぱいで美容院に出かけたり、カラオケ教室に出かけようとしています。
当然ながら、そのお客様との打ち合わせのために確保した2時間が(移動時間をふくめれば3時間が)、まったくの無駄になります。
それならば、まだ不在の方がなんぼかマシだな、と。
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かつて、このお客様との顧問契約を終了させようと真剣に悩みましたが、いまは、少なくとも私の方から、お付き合いを終了させるつもりはありません。どれだけ約束をすっぽかされようとも。
その理由を書いてみます。
その1 お客様に、悪気はないから
そのお客様は、ご自身の物忘れに気づいたとき、「申し訳ない、すみません」と必ず言ってくれます。
ご自身でも、「物忘れがひどくて困っている」と認識しています。
そして最終的には、必要なことは、ちゃんとやってくれます。
こちらの仕事が終わった後は、毎回「お世話になりました。ありがとうございました。次回もまたよろしくお願いします」と言ってくれます。
前述のとおり、お客様とのお付き合いについて悩んでいた時、ふと気づきました。
「私はいま、約束をすっぽかされてイライラしているけど、お客様が私をイラつかせようとしているわけではない。このお客様は、物忘れさえなければ、私から言われたことを、ちゃんとやろうとしてくれている」と。
「要するに、約束をすっぽかされてイライラした態度をとるかどうかは、私自身の問題なのだ」と。
このことに気づけて、本当に良かったです。
「税理士に言われたことを、ちゃんとやろうとしている」というのは、税理士からすれば、まさに理想のお客様です。
「このお客様こそ、大切にしなければ」と思い直した瞬間でした。
その2 いずれ私も、お年寄りになるから
私がお年寄りになるには、多少時間がかかるものの、順調に生きていけば、いずれ必ず70代のお年寄りになります。
私の両親は、おかげ様で健在でして、もうしばらくすると80代を迎えます。
誰しも年を重ねていけば、体も頭も、若い頃のようには動かないでしょうし、自分の思うようにすら動いてくれない、というときが来るのだと思います。
老化が主な原因で起こる現象については、それを起きないように努力する余地は、あることはあるのでしょうけど、どの程度効果が見込めるのでしょうか。
それらを、このお客様との関係で考えると、どうかなと。
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お客様の方で、物忘れが少なくなるように、努力や工夫をしてほしい、という思いはあります。
しかし、その効果が出なかったときに、税理士から「お宅は物忘れがひどくて、こっちは手間がすごくかかるから、来年から手数料を上げさせてもらうね」と言われたら、お客様はどう感じるでしょうかね。
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誰しも、好きで年を取っているわけではないし、まして、好んで物忘れをしているわけではない。
そう考えると、このお客様が、ご自身の老化からくる現象で悲しい思いをするようなことは、できるだけしたくないなと思いました。
そういうわけで、手数料を上げることはせずに、いまも、当初の金額のままで対応していす。
その3 現状、けっこう私も忘れがちだから
忘れないように注意しているものの、私にも物忘れはあります。
一番多い物忘れは、妻から言われた諸々の用事です。(申し訳ありません)
仕事柄、お客様から言われたことや、ご商売に絡む数字、自分自身に影響のある事柄、というのはメモをしますので、忘れることは少ないです。
それに、それらのことを私が忘れてしまったら、私以外に覚えている人がいないので、どのような影響がでるかわかりません。
お客様とのやりとりは、多かれ少なかれ緊張感がありますので、とにかく忘れないように気を付けていますし、今のところ、物忘れによる大きなミスはないはずです。(たぶん)
ただ、妻からでてきた情報となると、途端に忘れやすくなります。
やはり、自宅では緊張したくはないですし、私のうしろには妻がいてくれる、と思えば、まあ、私が忘れても大丈夫かなと(申し訳ありません)。
これからは妻情報もメモした方がいいかな。
頼まれたわけじゃないけど、お客様の人生を見届けたい
逆に、このお客様は、決して忘れないことがあります。
忘れられないと言った方がいいのかもしれません。
ご自身が嫁いできたときに、ご主人の兄弟にどのような目にあわされたか・・・ご自身は、ご主人の兄弟たちに、いろいろと尽くしてきたのに、義父の相続の際に、親戚一同が集まった場で、どのような吊し上げにあったか・・・など。
ほかにも、面談のときに話がでるのは、友達同士のお付き合いの話であったり、ご近所さんの不義理であったりと、人間関係につながる話は、忘れることはないようです。
それだけ、このお客様にとっては、私との事務連絡よりも、身近な人間関係にこそ、こだわりがあって大事だということです。(当然です)
特に、ご自身が嫁いできたときの話は、毎回必ずされるので、一時期うんざりしていたのですが、いまは、初めて聞いた時のようなそぶりで、お話を聞くようにしています。
(私は税理士ですが、税金の話よりも、お客様の身の上話を聞いている時間の方が、本当に長いです)
お話の熱量も、嫁いできたときの話のときが、一番感情がこもっていてアツいです。
思うに、この話、お客様としては、誰かに聞いてほしくて仕方がないのに、周りにいる人は、誰も聞いてくれないのだろうと。
だったら、税金の話はさっさと終わらせて、嫁いできたときの話をじっくり聞いてあげようと。
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いま、私の目標は、適正経理だとか節税だとかではなく、このお客様の「嫁いできたときのやりきれなかった思い」を納得いくまで語ってもらうことです。
そして、いつかお客様がこの世を去るときに、「いろいろあったけど、精いっぱい生きた人生だったな」と、少しでもすっきりできるように、胸の内を吐き出し切ってもらうことです。
それが税理士の仕事か?、と問われると、自分でもよくわかりません。
でも私は、このお客様とはこのような接し方をしていこう、と決めました。
参考になるかどうかわかりませんが、こんなことを考えながら、仕事をしています。