お疲れ様です。
税理士の浅原です。
雑損控除による所得控除を調べる中で、
どうしても無視できない「災害減免法による税額控除」という制度があります。
どうして無視できないのかというと、
「雑損控除を適用するならば災害減免法は使えない」、
そして、「災害減免法を適用するならば雑損控除は使えない」という、
両者選択適用の関係にあるからです。
ただ、災害減免法については、公表されている情報が少なすぎて、
特に適用要件がわかりづらかったのですが、
今回調べていたら、パターンによっては簡単に判断できることがわかりました。
そのことについて、書いてみようと思います。
「時価の2分の1以上の損害」とは
災害減免法では、その効果は明確です。
被災された納税者さんの所得区分に応じ、
「その年」の「所得税」が、「25%~100%の範囲」で「免除される」、
というものです。
簡単です。
わかりにくいのは「適用要件」です。
国税庁のサイトでは、次のように書かれています。
「損害金額がその時価の2分の1以上」
No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除|国税庁 (nta.go.jp)
時価ってなに?
と思ってしまいますね。
一般の方のみならず、税理士であるわたしも、です。
これ以上の説明が、どの参考書を見ても書いてありません。
で、税務署に尋ねながらいろいろ調べたのですが、
この点の結論としては、次のようなものでした。
「時価の算定が困難な場合には、雑損控除の『損失の合理的な計算方法』の規定を使ってよい」
つまりは、
〇雑損控除の被災資産の推定価額の制度を使ってよい
Ⅰ‐2 雑損控除の適用における「損失額の合理的な計算方法」|国税庁 (nta.go.jp)
〇雑損控除の被害割合の規定も使ってよい(罹災証明の判定結果と紐付けて)
〇同じく、浸水被害における被害割合の加算の運用も使ってよい
ということでした。
そうすると、
この「時価」の中身と「2分の1以上かどうか」が、
とても明確になります。
災害減免法にも手を出しやすくなりますね。
算式
「時価の2分の1以上かどうか」は、つぎの計算により求めます。
(被災前の時価 - 被災後の時価 - 保険金)÷ 被災前の時価
そして、「被災前の時価」は、雑損控除の制度を使うと次のような計算になります。
【住居】であれば、
・取得価格がわかれば、取得価格 - 減価償却累計額
・取得価格がわからないときは、推定価額 - 減価償却累計額
【家財】であれば、
・取得価格がわかれば、取得価格 - 減価償却累計額
・取得価格がわからないときは、推定価額(減価償却累計額の差し引きは、なし)
となります。
加えて、「被災後の時価」は、
被災前の時価 × 被害割合 です。
つまるところ、「時価の2分の1以上かどうか」は、
「被害割合の比率」と「保険金の有無」が問題である、
ということですね。
具体的には、
罹災証明の判定結果が「半壊」の場合は、被害割合は50%。
よって、保険金がなければ、この段階で自動的に「時価の2分の1以上の損害」に該当することになり、
災害減免法の適用要件を満たします。
罹災証明の判定結果が「準半壊」であれば、被害割合は5%。
よって、浸水被害による被害割合で45%以上の加算が得られれば(さらに保険金がなければ)、
災害減免法の適用要件を満たす、ということになります。
ちなみに、
「住居」か「家財」、どちらかの損害が2分の1以上であれば、
災害減免法の適用要件を満たします。
情報が少なすぎて手を出せない
それにしても、情報が少なすぎます。
わたしは、
雑損控除の制度をある程度調べ上げてから、災害減免法を調べていきましたので、
まだ理解が進みますが、
もし雑損控除の知識がないまま災害減免法から調べを進めていったら、
雑損控除の制度の複雑さに嫌気がさして、
途中で諦めていたのではないかと思います。
それくらい、この雑損控除も災害減免法も、
具体的な運用面に関しては、公表されている情報が少なすぎて、
ただのアリバイ制度(国としては、ちゃんと税制面でも被災者保護を行っていますよ、というエスケープ)
になってしまっているように感じます。
災害の種類や被災の実情は、個々の被災者さんによって違うことはわかるので、
詳細な線引きはしない、というのは、
ある意味で「設計者の知恵」ともとれるのですが。
しかし、それじゃあこれらの制度、
怖くて誰も手を出せないんじゃないかと。
そんなわけで、
今回調べてわかったことを書いておきましたので、
災害減免法について知りたい方のご参考になれば幸いです。