【雑損控除・その4】台風による浸水被害のときは、災害減免法ではなく雑損控除がおすすめ

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

自然災害による被災者支援策として、税法面では、その柱のひとつに、

「雑損控除による所得控除」と「災害減免法による税額控除」という減額制度があります。

この両者は、併用不可となっており、どちらか一方を選択しなければなりません。

この雑損控除と災害減免法、どちらを選択すべきかについて、

台風被害による被災者さんとお話をしていますと、

ほぼ雑損控除一択である、ということに気付きました。

その理由について書いてようと思います。

なお、以下では同じ水関係の災害として、

「地震による津波」と「大雨による増水」とで比較しながらみていきます。

被災者支援も本業の税理士業も
かなり忙しくなってきましたが、
賃貸業も遅らせるわけにはいかない。
洗面化粧台を搬入してきました。

「被害規模」が限定的

災害減免法においては、「住宅・家財の時価の50%以上の損害」が適用要件であるのに対して、

雑損控除では、「〇%以上の損害」という要件はありません。

強いて言うなら、「その年の所得金額の10%相当額」、

または「5万円」が、被害金額から差し引かれますので、

このどちらかの金額を上回る被害金額が発生していれば、雑損控除の適用を受けることができます。

さて、おなじ水による被害でも、津波と増水では、被害の規模が全く違ってきます。

津波では家が流されますが、増水で家が流されることは少ないです。

総じて、増水の際の被害は、「水が引いて乾けば、見た目は元通り」という、

何もなかったかのような状態に戻れます。

見た目の被害は限定的なわけです。

税金計算上での被害が、50%以上かどうか(しかも時価換算で)、

計算してみないことにはわからないわけです。

しかし、現実には浸水したお宅では、泥の撤去、濡れた家財の片づけ、木部の乾燥、消毒など、

やらなければならないことの多さに圧倒されます。

復旧作業を頑張りすぎて、体調を崩してしまう方も多くいます。

ここで問題です。

浸水被害を受けて、この先やることがたくさんある被災者の方に、

適用要件に当てはまるかどうかわからないような税金控除の制度について、

まず制度内容について理解してもらい、関係情報を整理して、

当てはめ計算をしてもらうことをおすすめできるか、というと、

わたしはできないです。

仮に計算してみようとなっても、「50%以上の損害」かどうかの結論に至るまでに、

相当悩むはずです。

なにせ災害減免法に関しては、世に出ている情報が少なすぎるので、

自分ひとりで調べるには相当な負担がかかります。

さらに、計算した結果、「50%に達していない」となりましたら、

災害減免法は適用できません。

それまでの努力と時間が無駄になります。

その点、被害が「50%」に達していなくても、雑損控除であれば適用できます。

下準備が無駄にはなりません。

「対象資産」が限定的

災害減免法における被害認定の対象となるのは、「住宅」と「家財」のみです。

これに対し、雑損控除では、

これらに加えて「車両」も被害算定の対象に含まれます。

増水による浸水被害の場合、

住宅は無事だったけど、「車両が水没した」、「被害を受けたのは車だけ」、

という場合が、とても多いです。

このような場合は、最初から災害減免法は切り捨てて、

雑損控除のみで申告すれば大丈夫です。

雑損控除であれば、

車の残存価格(購入価格-減価償却-保険金)、廃車費用、修理費用が、

控除対象になってきます。

「効果の及ぶ期間」が限定的

災害減免法は、災害を受けた年のみの控除となります。

その年の税金から差し引ききれなかった控除金額は、切り捨てとなります。

これに対し、雑損控除では、その年の所得から引ききれなかった控除額は、

翌年以降3年間、繰り越しが可能です。

繰り越した翌年以降も、その年の所得金額から、残った控除額を差し引くことができます。

「対象税目」が限定的

災害減免法は、所得税のみの制度です。

それゆえ、災害減免法による税額控除の効果は、所得税にしか及びません。

この場合、住民税でも同様の控除を受けたいとなると、住民税独自に確定申告を行い、

その申告書上で、雑損控除の計算を行うことになります。

(住民税計算にも、所得税と同じく雑損控除の制度がある)

これに対し、雑損控除は、所得税での計算方法と住民税での計算方法がまったく同じなので、

所得税の確定申告書で雑損控除の計算を行えば、自動的に住民税の申告内容にも反映されます。

(ひと手間で済みます)

災害減免法が役立つ場面

以上、見てきた通り、大雨による増水での浸水被害においては、

被害規模が限定的であることから、雑損控除の方が適用に向いている、と言えます。

逆に言いますと、災害減免法が役に立つ場面というのは、被害規模が大きい場合です。

地震による津波、台風による土砂災害など、

明らかに、「住宅や家財の50%以上が被害を受けた」というような場合です。

罹災証明でいえば、「全壊」クラスが多発するような災害のときならば、

災害減免法の適用を検討することに意味がある、と言えます。

説明情報の少なさ

わたしが、災害時税制について集中的に調べるようになってから、1か月と少し経ちました。

この間、かなり自分なりに調べてきたつもりですが、雑損控除、災害減免法ともに、

世に出ている情報が少なすぎて、なかなか調べが進みません。

特に、災害減免法については、情報がまったくない。

そもそも、適用要件である「住宅や家財の価格の50%以上の損害」についても、

住宅や家財それぞれ個別に判断するのか、もしくはまとめて総合的に判断するのか、

価格とは「時価」を意味しますが、ここでいう時価とは、通常の減価償却額を反映するだけでいいのか、

雑損控除のような価格推定は認めてくれるのか、など、不明点が多すぎます。

すべて税務署に聞かないとわかりません。

ただでさえ、やることに追われている被災された方に、これだけの事務負担を負わせる制度が、

本当に救済制度と言えるのかどうか、疑問に思うところです。

「仏像作って魂入れず」

税制上の救済制度には、そういうものが多すぎる、と感じています。