顧問契約が終了になりました(後編)

お疲れ様です。

税理士の浅原です。

前回の続きで、過去にお客様の方から顧問契約を解除された事例について書いてみます。

小魚でも何でも、釣れりゃうれしい中年男性。

顧問契約が終了になりました(前編)

税理士側から契約終了させてもらいました

共同経営者に会社をのっとられた社長

税理士登録をして3年目頃に、ネット経由でご依頼をいただきました。

聞くと、数年前、社長が大病をして命を失いかけて、それまで継続していた事業ができなくなって、今後新たな事業を模索していくなかで、先に会社だけ作ってみた、ということでした。

事業家という雰囲気をお持ちの方で、体つきもがっちりしていましたが、血の気のない顔色をしているのは、かつての大病のせいなのかもしれません。

経理処理的に難しいことはそれほどなかったので、ごく普通のお付き合いをさせていただいていました。

ただ、この社長、悪い人ではないのですが(むしろとてもいい人なのですが)、山っ気があるというか、一発当ててやろうという思いが強くて、思惑先行で事を進めてしまう癖があるようでした。

致し方ない点もあります。

かつての大病によって、社長は現在、体を酷使する労働はできない体になってしまったので、アイデアや人脈を取っ掛かりにするビジネスを見つけてくる必要がありました。

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ほどなく、ネットワークビジネスやビッドコインなどの仮想通貨で、何やらヒントが見つかったようで、あまり詳しくない私に、かなりの熱量でレクチャーしてくれました。

1年ほど、それらの分野について、下調べをしたり人脈づくりをしたあと、実際にビジネスとして動き始めたようで、それらの動きが帳簿上でもわかるようになってきたころです。

「共同経営をしたいと思っている」と、社長からお話がありました。

「ネットワークビジネスの方で、スケールメリットが必要であること。また、新規の取引をする際に、自社に複数人の取締役がいた方が見栄えがいい。新しい取締役には、報酬を出さないかわりに、自分の持っている株式を分けたい」ということでした。

このあたりから、私からの回答にはネガティブ要素が増えていったように思います。

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私が知る限り、私の周辺で共同経営をしていた方たちは、すべて行き詰って解散しています。

少なくとも、中小企業においては、会社=社長と言ってもいいくらい、社長の意向や影響によって、会社の方向性が決まってくるので、「その社長が複数人いる」という状況で、まとまりのある経営ができるとは、到底私には思えません。

加えて、今回、社長のところに集まってきた方たちというのは、一応全員と顔を合わせましたが、類は友を呼ぶを地で行くような、山っ気強いなーと感じる人たちでした。

逆に、社長が食い物にされてしまうのではないかと、心配になりました。

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繰り返しますが、私は共同経営というスタイルには反対です。

しかし、すでに社長の口から、株を分け与えるということで各人に説明がなされており、引き返すことはできない状態でした。(一番の問題は、共同経営の危険性について、何度説明しても、社長自身が危機感を持ってくれない、ということでしたが。まあ、とにかく他人を疑わないいい人でした)

最終的には、取締役を追加登記し、株式も分け与えることになりましがが、社長の持ち分を51%にすることで、ギリギリ折り合いをつけてもらうことができました。

もっとも、その後恐れていた通り、社長の個人的な不手際を共同経営の方たちから指摘されて、社長一人が、会社から追い出されることになりました。

社長は、会社も株式も、すべて手放すことになりました。

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正直なところ、私は傍から見ていて、そうなるだろうなと思っていました。

それを何度も社長に伝えたにも関わらず、事態を防げなかったのは残念でした。

社長は結局、事業経営がしたかったのか、単に会社を使ってバクチがしたかったのか、いまだによくわかりません。

今回の件で、私自身が責められることはありませんでしたが、「共同経営はやめておいた方がいい」という思いは、一層強くなりました。

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後日、社長から連絡があり、「今度は、結婚相談所をやることにしたよ。頼れるパートナーも見つかったから、軌道にのったら、また先生、頼むよ」とのこと。

ぜひ、再起を成功させてほしいと願っています。

連絡がつかなくなった社長の奥様

人材派遣業を営んでいる会社様でした。

会社の資金繰りが苦しくなってきて、いまお付き合いしている税理士への報酬が払えない状態になり、少ない金額で決算をやってくれる税理士さんを探している、ということで、社長の奥様から相談がありました。

奥様が、もともと社労士事務所に勤務されていた方で、給与計算や経理事務もだいたいご自身でできる、ということでしたので、こちらの業務量を調整することで、手数料を抑えての受注となりました。

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人材派遣業ですから、スタッフを派遣できれば、派遣料収入と原価にあたる人件費との差額が粗利になりますし、派遣できずに売上が少なかったとしても、それに伴う人権費も発生しません。商品在庫を抱えこむこともありません。

それゆえ、軌道にのれば、利益も資金繰りも見通しが立てやすい業種だと思うのですが、帳簿内容をみて、資金繰りが苦しい理由がわかりました。

交際費勘定に計上されているゴルフの回数が、すごいことになっていました。

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おそらくご主人である社長は、仕事をしていない、経営現場に意識が向けられていない、と感じました。

私は、ゴルフはしませんが、かつて会社員をしていたときに、1度だけ上司に誘われてコースにでたことがあります。

その日は、当然ながらさんざんな結果となり、「貴重な休みを使って、金払って山に行って、陸上選手のごとく走りらされて、もう二度と行かんぞ」と思いましたが、コースに出るとなれば、急いでやっても半日はかかります。

半日もっていかれて、かなり疲れるゴルフに、社長がこの頻度で出かけていたら、家族経営の規模の会社では、まともな現場管理はできていないだろう、と思いました。

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決算を組みながら、今まだ運転資金が回っているうちなら、リスケせずとも資金繰りを改善できる余地はある、と感じました。

そこで、奥様に「私から直接、社長にご説明しますので、改善のためのアクションを起こしてもらうよう働きかけましょう」と、ところどころでお伝えしていました。

しかし、結局その機会はありませんでした。

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年を追うごとに、ご夫婦の関係も悪くなっていったようです。

現状を把握していて、会社が行き詰まりかけていることを理解している奥様と、現状を見ようとせずに、高級車やゴルフに明け暮れているご主人では、見ている景色が違うので、話がかみ合わなくなっていったのだと思います。

ある年の決算で、私への報酬が払えなくて、決算後の国税還付金を元手に払う、ということになりました。

致し方なし、と思い、その条件で決算書を完成させて申告しましたが、その後、奥様とはまったく連絡がつかなくなりました。(報酬は、後日、振り込まれました)

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それから数年後、とある弁護士事務所から電話があり、その派遣業の会社様の総勘定元帳を見せてほしい、とのこと。

聞くと、その会社様から、破産手続きの依頼があった、ということです。

社長と奥様は離婚してしまって、必要な経理資料がすべて奥様のところにあるので、弁護士がチェックすることができなくて、私のところに電話してきた、ということでした。

そうか、ついに離婚してしまったか。

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経営状況が悪化していく過程で、ご家族の関係性も悪化していく、というのは、よく目にするパターンです。

ご家族の関係性の悪化が、経営状況悪化の一番の原因、ということも、よくあります。

お金の問題も、原因をたどっていけば、人間関係にたどり着くというのが、私の考えです。

何かうまくいっていない、と感じるときは、ご自身をとりまく人間関係に注目すると、改善のヒントがあるように思います。

税理士は、資金繰りの改善だけではなくて、人間関係の改善にも踏み込んでいかないとならないのかなあ、と感じさせる一件でした。

まとめ

個人的には、運転資金が足りなくなって破産手続きに入る、ということに善悪の評価はないと思っています。

自分に合わない仕事を苦しみながら続けるというのは、まさに地獄です。

そういうときには、破産手続きは、地獄からの出口ととらえて、前だけ見て進んでいけばいいと思っています。

以上、ご参考まで。