お疲れ様です。
税理士の浅原です。
今回は、お客様からの解約ではなく、私から解約した事例について書いてみようと思います。


そこは、社長が一人で部品製造をやっている会社様で、大手の電機メーカーを顧客にしていました。
社長は、電気メーカーからの注文に応じて、部品の設計図を作り、それを部品メーカーに外注に出して製作してもらう、という流れで、会社の運営をしていました。
振り返ると、この社長の対応から学ぶ教訓が、結構あります。
同じ失敗を繰り返さないためにも、教訓は今後に活かしていかないとなりません。
(念のため、この後に出てくる社長は、みな同一人物です)
約束を守らない社長
社長からの最初の電話が「あなた税理士さん? 帳簿を作ってもらいたいんだけど、どうしたらいい?」というものでした。
面談もしないで、いきなり電話だけで仕事を依頼してくる、というのは、今でこそ「そういうのってどうかなー」と思いますが、当時、若かった私は、「おっしゃー依頼だ、がんばろう」と単純に喜んでいました。
後日、社長と面談したところ、この会社様では、いままで会計帳簿は作らずに、決算書と税務申告書を、税務署で教えてもらいながら社長ご自身で作っていた、ということです。
案の定、領収書、レシートと通帳コピーを1年分どっさり渡されて、しばらくの間、その会社様の決算書作成に付きっ切りになったことを覚えています。
その後、決算書申告書が出来上がって、社長に報告に行く際に、「次からは、この書類はこういうふうに、通帳はこういうふうに、整理しておいてくださいますか」とお願いすると、社長は「わかりました。次回はちゃんと整理しておくから、安心してください」と言ってくれました。
そして、社長お一人でやってらっしゃる会社様なので、毎月訪問する必要もない、とのことで、半年に一回、お伺いすることにしました。
・・・・・・
決算から半年後、お伺いしてみると、「書類の整理がまだできていない」ということなので、通帳コピーだけもらって帰りました。
結局その年、書類の整理はできないままで、決算時に、再び1年分の資料をどっさり預かってくる、ということになりました。
ふたたび決算報告の際、書類の整理について改めてお願いすると、「ごめんごめん、次回はちゃんとするから安心して」と言われます。
その後、決算ごとに同じやり取りを繰り返しました。
結局、関与していた6年間、1度も社長が書類の整理をしてくれたことはありませんでした。
日本の一般常識とかけ離れた説明をする社長
あるとき、この社長から、「自分の仕事を手伝ってもらうスタッフを、ひとり採用した」ということで中国人女性の名前が、資料に上がってきました。
給与となると、こちらで作成する書類が増えるので、詳しい情報をお聞きしようと思ったのですが、社長が教えてくれません。
1万2万の小遣い程度ならまだしも、結構な額を支給しているし、税務調査のときには源泉税は必ずチェックされるので教えてほしい、といっても答えてくれません。
粘って粘って聞き出したのが、「細かい情報をしゃべって、万が一それが中国当局に知られると、彼女が当局から殺されてしまう。だから教えることはできない」とのこと。
・・・・・・
世界には、内戦状態の国やテロ活動の頻発している国があるし、戦争のない日本で生きている私にはわからないことが多いけど、果たして社長は本気で言っているのだろうか。
論理の飛躍がすさまじい説明でしたが、それ以上聞き出すことはできずに、税務調査の件だけ念押しして、終わりにしました。
事実を話してくれない社長
決算処理をする上で、締め日の調整が出てきます。
決算日前に出荷した商品で、売上先で検品が終わったものは、たとえ代金の入金が決算後であったとしても、決算年度の売上高として帳簿に計上しなければなりません。
一般的な入金サイクルだと、決算月の翌月に入金された売上金は、決算日前に出荷検品が終わっている可能性が高く、決算処理の対象としてチェックしなければなりません。
・・・・・・
当然、私も確認しますので、社長に売上の締め日をお聞きすると、「当月出荷の当月末入金」との回答です。
そうだとするなら、売掛状態のものはない、ということになります。
では、念のため、書類と入金の突合せをしたい、と資料の提示をお願いすると、「数字の突合せに使える書類がない」と言われます。
ないはずないでしょ、と言いたいのですが、それ以上お願いができないので、私は、社長の説明を元に決算処理を進めるしかありません。
結果、売掛金なし、という決算書になりました。
・・・・・・
しかし実際には、後の決算で、入金サイクルが「当月出荷の2か月後入金」であることが分かりました。
このとき私は、この社長とのお付き合いはこれで終わりにしよう、と心の中で決定しました。
法律よりも損得で判断する社長
入金サイクルが、売上締め日から2か月後であることが判明して、その結果、過去にさかのぼって修正申告をする必要が出てきました。
これはえらいことになる、と思いました。
消費税の納税義務も変わってきます。
社長の説明を根拠にしているとはいえ、事実と異なる決算書を作ってしまっており、その分の報酬もいただいている以上は、お付き合いを終了させる前に修正申告しておく必要がある、と考え、さっそく修正にとりかかりました。
・・・・・・
近年この会社様は、取引量が増加傾向にあったので、毎月の売上入金を2か月ずつずらしていくと、特に消費税の追加納税額が多額になりました。
心苦しいけど、これは払ってもらうしかない、と腹を決めて、社長に説明に行きました。
社長は、「いや、修正する必要はない」とのこと。
その理由は?とお聞きしても、明確な説明はありません。
もっとも、社長の合意なしに、税理士が勝手に修正申告をすることはできないので、いったんはこれで結論がでました。
ひとまず私は、税理士としてやるべきところまではやったので、これで顧問契約は終了にさせてください、と言おうとしたときに、社長から、「浅原さんとの税理士の契約は、これで終わりにさせてもらう」と言われました。
修正申告どうすんのかな、という思いが、消化不良のまま腹に残っていましたが、私も同じことを言おうとしていたので、最後はすんなり終われました。
先に社長から、顧問契約終了と言われてしまいましたが、私の方も、すでに終了する意思は固まっていたので、私の中ではこの会社様は、税理士側から解約した、ということでカウントしています。
・・・・・・
後日、社長から、「浅原さんからもらった決算書がなくなってしまったので、もう一度印刷してほしい」と電話がかかってきました。
要するにこの社長は、経理や税務についてそもそも関心がないんだな、と思いながら、決算書を印刷して、再送しました。
・・・・・・
正直なところ、「いただいた報酬は全額お返ししますから、社長のために使った時間や労力は全部返してほしい」と思っています。
お付き合いするお相手は、こちらもしっかり選ばなければならないと思う一件でした。
まとめ
誰しも、経理作業や事務処理をしたくて事業経営を始めるわけではないので、これらの事務仕事が後回しにされるのは、仕方ないなと思います。
まあでも、結局やらなければならない仕事なら、できるだけ経営に役に立つ形で取り組みたい、と私は思っていますし、実際、経営に役立つ情報が、会計データの中にはたくさんあります。
本文で紹介した社長は、ほとんどご自身の感覚と価値観だけを頼りに、事業をされていました。
ある意味で、すごい人物だと思います。
しかし、決断を下す際には、何かしっかりとした根拠にすがりたい、と思う私のような人間には、到底真似できるものではないし、相互理解も進まないと思うので、今後は、できるだけ価値観を共有できる人と、一緒に仕事をしたいと思っています。
以上、ご参考まで。