こんにちは。
税理士の浅原です。
たいぶ投稿に時間が空いてしまいました。
本業が忙しかったのと、このホームページの手直しなどで、毎日時間が足りない状況になってしまい、時間管理の難しさが身に染みる1か月でした。
今日の時点で、私が抱える所得税申告の作業がほぼ完了し、あとは今月いっぱいかけて、お客様への報告と今後の方針についての相談をしていく予定です。
それにしても、2月から3月上旬の間に、法人決算2件と、個人の所得税申告を10件程度こなしていく、というのは、どうしてもタイムスケジュールがギヅギヅになります。
今、私がやっているような、通帳コピーから会計ソフトに手入力をしていく、というやり方では、タイピングのスピードを上げたところで、量的な限界にぶち当たってしまいます。
会計ソフトへの入力のしかた自体を変えていく必要性を、今回の申告シーズンで痛感しました。
今年は、IT技術の習得を頑張ってみようと思います。
ところで私は、所得税申告の作業中に、毎年、作業の手が止まってしまうことがあります。
「年金受給者で、年金以外の収入のある方が、年金以外の所得金額が20万円以下ならば申告不要」という制度へのあてはめです。
目次
年金受給者の申告不要制度
国税庁のHPから、説明文を抜粋します。
「公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下で、かつ、公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には、所得税及び復興特別所得税の確定申告をする必要はありません」
(参考)公的年金等を受給されている方へ|国税庁 (nta.go.jp)
この制度について、完璧に理解されている方ってどのくらいいるのでしょうか。(いやいや、ほとんどの税理士さんは理解されているのでしょうね、あやふやなのは私くらいか)
私は、どういうわけか、いまいち、掴みきれずにいます。
ビビりの私は、毎年この制度の要件を調べなおして、前年の収入と今年の収入がほどんど変わらないお客様についても、そこそこ時間を使って要件へのあてはめをして、申告不要の結論を出すようにしています。
そうしないと、なんだかフワフワした心持ちになってしまい、落ち着きません。
来年こそ、そうしなくて済むように、きっちりシロクロつけておきたいと思います。
なお、私はあくまで実務家なので、制度そのものを掘り下げるのではなく、自分自身が実務でよく取り扱う「会社役員やその家族が、年金受給者であり、かつ自分の会社から給与をもらっている」というパターンについて、以下検討してみます。
①「公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下」という要件
これは、文字通り、公的年金等の収入金額の合計が400万円以下であるかどうかです。
迷うとすれば、「公的年金等」の中身がどの範囲までなのか、という点です。
主なものとしては、
- 国民年金、厚生年金保険、公務員等の共済組合などから支払われる年金
- 会社などから支払われる企業年金
となります。
(参考 )No.1600 公的年金等の課税関係|国税庁 (nta.go.jp)
②「公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下」という要件
まず、「公的年金等に係る雑所得以外の」については、主に次の収入が考えられます。
「給与」「賞与」「パート収入」「公的年金以外の個人年金」「満期保険金」など。
この中でも、よくあるのは給与かパート収入だと思います。
私が現在担当しているお客様についても、この申告不要制度の対象になる方は、「公的年金収入+給与収入」というパターンです。
次いで、「所得金額が20万円以下」という要件。
気になるのは、「所得金額」の内容です。
税務業界では一般的な概念ですが、この「所得金額」は「利益金額」と同じ意味です。
その結果、給与をもらっている人については、給与収入から一定額を控除(給与所得控除)した金額が「所得金額」になります。
計算式としては、「給与収入-給与所得控除額」のようになります。
そして、給与所得控除額は、給与収入の金額によって変動しますが、最低額が55万円に設定されています。
(参考)No.1410 給与所得控除|国税庁 (nta.go.jp)
ですので、(給与所得控除の一覧表に照らすと)給与収入が年間1,625,000円以下の人ならば、所得金額は、「年間の給与収入-550,000円」として計算をすることになります。
収入金額の規模でみていくと、つぎのようなパターンになります。
「給与収入が年間75万円の人」・・・750,000円-550,000円=200,000円・・・20万円以下なので申告不要
「給与収入が年間100万円の人」・・・1,00,000円-550,000円=450,000円・・・20万円超なので申告必要
なお、令和2年分から、給与所得控除額と公的年金等控除控除額がそれぞれ減額されまして、控除額が減ったことに伴う税額増加を緩和するため、所得金額調整控除、という制度が新たに作られました。
(参考)No.1411 所得金額調整控除|国税庁 (nta.go.jp)
ただ、この制度についての説明を加えると、この記事の本筋がぼやけてしまうので、所得金額調整控除については省略させていただきます。(最大でも10万円の控除なので、もともと納税への影響が少ないです)
③「所得税及び~の確定申告をする必要はありません」という結果について
ここまでの説明で、「年金収入が400万円以下で、かつ給与収入が75万円以下」であるなら申告不要、となることがわかりました。
では、給与収入が75万円を超える場合には、申告が必要になるのでしょうか。
結論としては、申告は必ずしも必要ない、となります。
そもそも税金計算の結果、納税額が発生しない人は、確定申告の必要がありません。
下記の国税庁のサイトにも、明記されています。
そして、上記の給与所得控除額とは別に、所得から差し引くことができる控除額として、だれしも無条件で受けられる「48万円の基礎控除額」というのがあります。
これを、先ほどの給与収入が100万円の人の例で見てみると、このようになります。
「給与収入が年間100万円の人」・・・1,00,000円-550,000円-480,000円=▲30,000円 → 所得0円 → 税額0円 → 確定申告不要
この「給与収入が年間100万円の人」の場合、「公的年金収入400万円以下の申告不要制度」には当てはまりませんが、通常の所得税計算の結果、所得税額ゼロとなりますので、所得税の確定申告は不要となります。
要するに、「公的年金収入400万円以下の申告不要制度」の要件に当てはまれば、所得税申告をする必要はない。また、その制度は関係なしに、通常通り所得税計算をすれば所得税額が発生しない、というのであれば、同様に所得税申告をする必要はない、ということになります。
仮に、「65歳以上の人で、年金収入と給与収入がある」とするなら、その人の場合、「年金収入が110万円以下」かつ「給与収入が103万円以下」ならば、所得税の申告をする必要はありません。
なお、繰り返しになりますが、上記計算には、10万円の所得金額調整控除額は加味していませんので、実際には「年金収入が110万円以上」もしくは「給与収入が103万円以上」の人であっても、所得税の申告が不要となる場合があります。
その場合には、ともかく実際の金額をもとに所得税計算をしてみてください。
申告不要となった後に、気を付けたいこと
上記申告不要制度に当てはまった、もしくは、通常の税金計算の結果、追加納税が発生せず申告不要となった、という場合に、注意しておきたいことが2つあります。
一つ目は、医療費控除を受けることで税額の還付が生じる場合です。
医療費控除は、確定申告をしなければ、控除を受けることができないことになっています。
ですので、還付される税額と申告手続きの手間や時間を天秤にかけて、申告をするかしないか判断してもらえば、大丈夫です。(かかる手間の割には、還付額が少ない、ということは、申告をしないという結論でかまいません)
二つ目が、住民税の申告です。
国税庁のサイトにも記載されていますが、申告不要制度の要件にあてはまって、その結果申告しなくてよい、となっても、住民税の申告は必要な場合がある、ということです。
このあたりのことも、納税者としてははっきりしてほしいところですが、所得税を管理しているのが国で、住民税を管理しているのが県や市なので、情報発信が一元化されないのは致し方ありません。
では、実際のところ、どういう場合に住民税の申告が必要になるのか、地元の静岡市役所に電話して聞いてみました。
回答としては、「年金収入のデータは、社会保険事務所から入手するので必要ない。給与収入も、勤務先が発行する給与支払報告書で把握できるので必要ない。住民税の申告が必要になるのは、市役所では把握できない種類の収入が発生した場合である」とのことでした。
まとめ
以上の点をまとめますと、「65歳以上の人で、年金収入が110万円以下」かつ「給与収入が103万円以下」ならば、「所得税の申告は不要であり、かつ住民税の申告も不要である」となります。
この条件に当てはまらない場合には、国税庁の確定申告書作成コーナーで、申告データを入力してみることをお勧めします。
確定申告書作成コーナーでは、計算結果を表示する際に、申告不要の要件に当てはまっていれば、「確定申告の必要はありません」と明示されますので、安心です。
ご参考になさってください。